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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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消えた神々

街は活気に満ちていた。


石畳の通りには露店が並び、焼きたてのパンの香りが風に乗る。


子どもたちは木剣を振り回しながら走り回り、大人たちは笑いながら今日という平和な一日を過ごしていた。


つい数日前まで世界が滅びかけていたとは、誰にも想像できないほど穏やかな光景だった。


シオンたちは街の中央にある食堂へ入る。


木造の温かな店内は昼時ということもあり、多くの客で賑わっていた。


「おっ!」


店主がシオンたちを見るなり大声で笑う。


「英雄様のお帰りだ!」


「英雄じゃないですよ。」


シオンは苦笑する。


「腹を空かせた旅人です。」


「ガハハ!」


店主は豪快に笑い、大皿をテーブルへ並べ始める。


「今日は祝いだ!」


「全部俺のおごり!」


「いや、それは悪いです。」


「気にするな!」


「世界を救ってくれた礼だ!」


周囲の客たちも拍手を送る。


シオンは照れ臭そうに頭を掻いた。


「こういうの苦手なんだけどな……。」


「昔からそうだった。」


ルナリアが優しく笑う。


「戦いではあんなに堂々としてるのに。」


「こっちの方が緊張する。」


「変なの。」


二人は顔を見合わせて笑った。


料理が次々と運ばれてくる。


焼き立てのパン。


香草のスープ。


大きな肉料理。


甘い果実酒。


ヴォルグは待ち切れず肉へかぶりついた。


「うめぇぇぇ!」


「待ちなさい!」


アリアが額へ手を当てる。


「まだ乾杯もしてない。」


「腹は待ってくれねぇ!」


「子どもね。」


レオニクスも苦笑しながらグラスを持ち上げた。


「では。」


「世界の再生と。」


「仲間との再会に。」


「乾杯。」


「乾杯!」


グラスがぶつかり合う。


軽やかな音が店内へ響いた。


シオンは一口だけ果実酒を飲み、ゆっくり息を吐く。


「……生きてる。」


その一言に、テーブルが静かになる。


ヴォルグは笑みを消し、静かに頷いた。


「ああ。」


「俺達もそう思った。」


レオニクスがグラスを置く。


「最後の光を見た。」


「七色の光が空へ昇るのを。」


アリアも小さく俯く。


「何となく分かった。」


「もう二度と会えないって。」


ルナリアは静かに胸へ手を当てた。


「あの日。」


「空から、とても優しい光が降ってきた。」


「理由は分からなかったけど。」


「自然と涙が止まらなかった。」


シオンは黙って話を聞いていた。


始祖。


クロノス。


レイ。


ルシエル。


アダム。


アイオーン。


モイラ。


七柱は確かに消えた。


しかし誰も、その名を忘れてはいない。


世界は七柱の存在を知っていた。


歴史としてではない。


魂の記憶として。


シオンは静かにグラスを握る。


「みんな。」


「最後まで笑ってた。」


ルナリアが優しく微笑む。


「シオン。」


「うん?」


「その顔。」


「泣きたい時の顔だよ。」


シオンは思わず笑った。


「隠せてると思ってた。」


「全然。」


ルナリアはそっとシオンの手へ自分の手を重ねる。


「泣いてもいい。」


「頑張ったんだから。」


その一言で。


張り詰めていた心が少しだけ緩んだ。


シオンは目を閉じ、小さく息を吐く。


「始祖がさ。」


「最後に言ったんだ。」


『ここから先は、お前達の時代だ。』


「クロノスは。」


『最後まで格好付けやがって。』


そう笑ってた。」


テーブルの誰も口を挟まない。


シオンは静かに続ける。


「俺。」


「ちゃんと約束守れたかな。」


レオニクスは迷わず答えた。


「守った。」


アリアも頷く。


「ええ。」


ヴォルグは大きな手でシオンの肩を叩いた。


「だから今こうして飯が食えてる。」


「それ以上の証拠があるか。」


ルナリアは微笑みながら言う。


「シオン。」


「神様はいなくなったかもしれない。」


「でも。」


「残してくれたものは消えてない。」


「私達が笑ってる。」


「それが答えじゃないかな。」


シオンはゆっくり周囲を見渡した。


笑い合う仲間。


料理を囲む人々。


子どもたちの笑い声。


何気ない日常。


それこそが、七柱が命を懸けて守った未来だった。


その時だった。


食堂の扉が静かに開く。


カラン――。


鈴の音が響く。


全員が振り向く。


一人の旅人が立っていた。


白いローブ。


深く被ったフード。


顔は見えない。


旅人は店内をゆっくり見渡すと、シオンだけを見つめて小さく微笑んだ。


「ようやく。」


「見つけました。」


その声を聞いた瞬間。


シオンの胸の奥で、消えたはずの観測者の紋章が一瞬だけ淡く輝いた。


新世界は平和だった。


だが――。


新たな物語は、静かに動き始めようとしていた。

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