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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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朝焼け

風が吹いていた。


優しい風だった。


頬を撫でるその感触は、虚無では決して感じることのできなかった命の温もりだった。


シオンはゆっくりと瞼を開く。


視界いっぱいに広がるのは、青い空。


雲がゆっくりと流れ、朝日が世界を黄金色へ染め上げている。


「……空。」


思わず呟いた声は少し掠れていた。


土の匂いがする。


草の匂いも。


鳥のさえずりが聞こえる。


そのどれもが、失われたはずの日常だった。


シオンは静かに起き上がる。


そこは小高い丘だった。


柔らかな草原がどこまでも続き、その先には大きな湖と、一つの街が見える。


崩壊した第五百世界とは違う。


浮遊都市でもない。


神域でもない。


見たことのない景色だった。


「ここは……。」


《ECLIPSE》を探す。


しかし腰には剣がなかった。


胸へ刻まれていた始原観測者の紋章も消えている。


黒星王の力も感じない。


驚くほど身体が軽かった。


「全部……なくなった?」


その時だった。


「起きたか。」


聞き慣れた声が背後から響く。


シオンは勢いよく振り返る。


そこには白いコートを羽織った青年が立っていた。


「ルクス。」


青年は穏やかに微笑む。


「安心しろ。」


「力が消えたわけじゃない。」


「世界へ還っただけだ。」


シオンは首を傾げる。


「どういう意味だ。」


ルクスは隣へ並び、朝日に照らされる街を見つめた。


「七柱が消えた。」


「観測者も役目を終えた。」


「創世神も存在しない。」


「だから。」


「世界は誰のものになったと思う。」


シオンは少し考えて笑う。


「人間。」


「正解だ。」


ルクスも小さく笑った。


「これからは命自身が未来を選ぶ。」


「神はもう干渉しない。」


「俺達は?」


「見守るだけだ。」


「神みたいだな。」


「違う。」


ルクスは首を横へ振る。


「ただの旅人だ。」


その言葉にシオンは苦笑した。


「始祖も同じこと言いそうだ。」


ルクスの表情が少し柔らかくなる。


「似ている。」


「エインも。」


「始祖も。」


「お前も。」


「みんな旅人だった。」


二人はしばらく黙って朝日を眺めていた。


静かな時間だった。


戦いの音はもう聞こえない。


悲鳴も。


爆発も。


剣がぶつかる音も。


ただ風だけが草原を渡っていく。


「終わったんだな。」


シオンが静かに呟く。


「……ああ。」


ルクスも頷く。


「本当に終わった。」


その言葉を聞いた瞬間、シオンは大きく息を吐いた。


張り詰めていたものが一気に解ける。


膝から力が抜け、その場へ座り込んでしまう。


「疲れた。」


「顔を見れば分かる。」


「二十四話分くらい戦った気分だ。」


ルクスが思わず吹き出した。


「もっとだ。」


「何度世界を救ったと思っている。」


「数えるのやめた。」


「私もだ。」


二人は声を上げて笑った。


虚無では決して聞こえなかった笑い声。


その音色は朝風へ乗って、どこまでも遠く響いていく。


やがてシオンは立ち上がり、街を見つめる。


煙突から白い煙が昇っている。


子どもたちが走り回り、市場には人々の笑い声が溢れていた。


「みんな……。」


「生きてる。」


その光景を見た瞬間、胸の奥が熱くなった。


守れた。


始祖との約束を。


クロノスとの約束を。


仲間との約束を。


ようやく果たせた。


ルクスが静かに歩き出す。


「行こう。」


「どこへ。」


「お前が一番帰りたい場所だ。」


シオンは何も聞かなかった。


聞く必要がなかった。


歩き出した足は自然と速くなる。


草原を駆ける。


丘を駆け下りる。


風が頬を打つ。


心臓が高鳴る。


街の門が少しずつ近付いてくる。


その時だった。


門の前へ、一人の少女が立っているのが見えた。


銀色の長い髪が朝日に揺れる。


白いワンピース。


透き通るような蒼い瞳。


少女もこちらへ気付いた。


目が合う。


時間が止まる。


少女の瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。


「……シオン?」


震える声だった。


シオンの足が止まる。


何度も夢で見た笑顔。


何度も守ると誓った人。


「ルナリア……。」


次の瞬間。


少女は泣きながら駆け出した。

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