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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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神なき戦場

黄金の瞳。


虚無の最深部で静かに開かれたその双眸は、アビスよりも静かで、ネメシスよりも冷たい存在感を放っていた。


シオンの胸に刻まれた紋章が激しく脈打つ。


鼓動の一つひとつが全身を駆け巡り、本能が危険を告げていた。


「……誰だ。」


返事はない。


ただ黄金の瞳だけが、微動だにせずシオンを見つめ続けている。


ネメシスは無意識に一歩後退した。


その表情には、これまで一度も見せなかった緊張が浮かんでいる。


「まさか……。」


エインも眉をひそめた。


「存在していたのか。」


「知っているのか?」


シオンが問い掛けると、エインはゆっくり頷いた。


「創世よりも前。」


「私とネメシスが、一度だけ感じた気配だ。」


「姿を確認する前に消えた。」


「だから幻だと思っていた。」


黄金の瞳は静かに細められる。


虚無が波打った。


アビスが突然苦しそうに身体を震わせる。


『……やめろ。』


初めてだった。


アビスが恐怖を滲ませた声を出したのは。


巨大な漆黒の身体へ無数の亀裂が走る。


黒い霧が噴き出し、その内側から黄金の光が漏れ始めた。


「アビス!」


シオンが駆け寄ろうとする。


だが、ネメシスが腕を掴んだ。


「行くな!」


「離せ!」


「今近付けば飲み込まれる!」


シオンはネメシスを睨む。


「見捨てろって言うのか!」


「違う!」


ネメシスも叫んだ。


「アビスは戦っている!」


「え……?」


ネメシスは苦しそうにアビスを見る。


「何億年も。」


「ずっと。」


「自分の中へ封じ続けていたんだ。」


シオンは言葉を失う。


アビスは終焉そのものではなかった。


もっと深い場所に眠る”何か”を、自らの存在で押さえ込み続けていた。


エインが静かに目を閉じる。


「だから、お前は外へ出なかったのか。」


アビスは苦しそうに頷く。


『世界へ……近付けば。』


『抑えきれなくなる。』


『だから……一人でいた。』


その言葉を聞いた瞬間、シオンの胸が締め付けられた。


始祖。


ネメシス。


アビス。


結局、世界はいつも誰か一人が孤独を抱え続けることで守られてきた。


「……もういい。」


シオンは静かに呟く。


アビスがゆっくり顔を上げる。


「もう十分だ。」


「お前も。」


「ネメシスも。」


「始祖も。」


「一人で背負いすぎなんだよ。」


その言葉に、エインは小さく笑った。


「本当に変わらないな。」


「何が。」


「誰よりも無茶な答えを選ぶところだ。」


シオンは照れ臭そうに鼻を掻く。


「今さらだろ。」


その瞬間だった。


黄金の瞳が、初めて笑った。


いや。


笑ったように見えた。


虚無の最深部から、低い声が響く。


『愚かだ。』


その声だけで世界群が激しく揺れる。


第五百世界の空へ無数の亀裂が走り、新世界では世界樹オメガが大きく傾いた。


シオンは剣を抜く。


《ECLIPSE》が透明な輝きを放つ。


「お前が黒幕か。」


『黒幕。』


『違う。』


『私は裁定者。』


『世界が生きる資格を持つか。』


『見極める者。』


「資格?」


シオンの目が鋭くなる。


「命に資格なんてない。」


『ある。』


黄金の瞳がさらに輝きを増す。


『滅びを繰り返す世界に。』


『存在する価値はあるのか。』


『争い。』


『憎しみ。』


『裏切り。』


『戦争。』


『その果てに滅ぶ世界を。』


『なぜ存続させる。』


静かな問いだった。


誰も答えられない。


エインも。


ネメシスも。


アビスでさえ沈黙している。


シオンはゆっくり息を吸った。


「確かに争いはある。」


「裏切る奴もいる。」


「間違える奴もいる。」


「でも。」


彼は第五百世界を思い浮かべる。


笑い合った日々。


仲間と囲んだ食卓。


くだらない喧嘩。


泣きながら交わした約束。


「それだけじゃない。」


「命は。」


「誰かを許せる。」


「誰かを愛せる。」


「何度でも立ち上がれる。」


「だから。」


シオンは剣を真っ直ぐ黄金の瞳へ向けた。


「一度滅びたくらいで。」


「世界を終わらせる理由にはならない。」


長い沈黙が訪れる。


黄金の瞳は静かにシオンを見つめ続けていた。


やがて。


『……ならば証明しろ。』


その一言と同時に。


黄金の光が虚無を切り裂いた。


シオンの目前へ、一人の青年がゆっくりと姿を現す。


白い長髪。


黄金の瞳。


純白の衣。


その姿は神にも人にも見えなかった。


青年は静かにシオンへ右手を差し出す。


「最後の観測者。」


「君を試そう。」


その瞬間、《ECLIPSE》が今までにないほど激しく共鳴した。


世界最後の試練が、静かに幕を開ける。

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