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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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世界海消滅

「ネメシス――。」


その名が虚無へ響いた瞬間、世界群すべてが共鳴した。


ドクン――。


まるで世界そのものが鼓動を打ったような振動が走り、静止していた崩壊が再び動き始める。


砕けた世界の破片がゆっくりと虚無へ落ちていく。


第五百世界。


新世界。


世界海。


数え切れない世界が、終焉へ向かって崩れ続けていた。


シオンは玉座へ座る人影を睨みつける。


「……あいつが全部の元凶なのか。」


エインは静かに首を横へ振った。


「違う。」


「ネメシスは世界を壊したことは一度もない。」


「壊したことがない?」


「彼はただ。」


「世界が終わる瞬間を見届け続けてきた。」


シオンは眉をひそめる。


「見届けるだけなら、何でこんなことになる。」


「世界は必ず終わる。」


エインは穏やかな口調を崩さない。


「その終わりを受け入れる存在。」


「それがネメシス。」


「始まりがあるなら終わりも必要だ。」


「私は始まりを見届けた。」


「彼は終わりを見届ける。」


シオンは納得できなかった。


「だったら止めろよ!」


「終わりなんて見届けなくていい!」


「世界はまだ生きてる!」


その叫びは虚無へ吸い込まれていく。


ネメシスは微動だにしない。


ただ静かに玉座へ腰掛け、世界群を眺め続けている。


その姿はどこか孤独だった。


まるで、誰よりも長い時間を一人で過ごしてきた者のように。


エインが小さく呟く。


「……彼もまた。」


「一人なんだ。」


その時だった。


世界海から眩い蒼い光が立ち上る。


シオンは反射的に振り返った。


「世界海……!」


虚無へ浮かぶ巨大な海。


あらゆる世界を繋いできた境界の海が、ゆっくりと光を失い始めていた。


海面へ無数の亀裂が走る。


一筋。


二筋。


やがて水平線まで広がる巨大な裂け目となる。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。


静かな音だった。


それでも、その崩壊は誰にも止められない。


世界海の上へ、一人の老人が現れる。


白いローブ。


長い白髪。


穏やかな笑顔。


「オルディス……!」


シオンは思わず名を呼んだ。


始まりの回廊を守っていた老人は、いつもと変わらない表情で海を見下ろしていた。


「来ましたか。」


静かな声だった。


「この日が。」


シオンは叫ぶ。


「逃げろ!」


「世界海が消える!」


オルディスは首を横へ振る。


「私は世界海の管理者です。」


「海が終わるなら。」


「私もここまでです。」


「そんなこと言うな!」


「約束しただろ!」


「また迎えに来るって!」


老人は優しく笑った。


「あの約束は本当です。」


「ですが。」


「迎えに行く相手は、今のあなたではありません。」


シオンは息を呑む。


オルディスは胸へ手を当てた。


「世界を救った最後の観測者を。」


「必ず迎えに行きます。」


その言葉と同時に、世界海が大きく揺れた。


巨大な津波が空へ向かって立ち上がる。


いや。


津波ではない。


海そのものが持ち上がっていた。


世界海はゆっくりと空中へ浮かび上がり、無数の蒼い粒子へ姿を変えていく。


美しかった。


崩壊なのに。


涙が出るほど美しかった。


オルディスはその光景を静かに見つめながら目を閉じる。


「始祖様。」


「クロノス様。」


「長い間、お疲れ様でした。」


「エイン様。」


「あなたの願いは、きっと叶います。」


最後に。


老人はシオンだけを見つめた。


「シオン様。」


「最後まで。」


「人を好きでいてください。」


その笑顔が消える。


世界海と共に。


老人の身体も蒼い光となって空へ溶けていった。


「オルディス!!」


シオンの叫びだけが虚無へ響く。


返事はない。


世界海は完全に消滅した。


あらゆる世界を繋いでいた境界は失われ、残された世界群は互いを繋ぐ道を完全に失う。


静寂。


長い沈黙の後。


玉座へ座るネメシスが、初めてゆっくりと立ち上がった。


その一歩だけで、虚無全体が震える。


エインの表情が険しくなる。


「……来る。」


シオンは涙を拭うと、静かに《オブザーバー・レガリア》を構えた。


「今度は。」


「絶対に誰も失わない。」


その決意を聞いたネメシスは、初めてシオンへ視線を向ける。


そして感情のない声で、小さく呟いた。


「その願い。」


「本当に、お前一人で背負えるのか。」


その問いは挑発ではなかった。


まるで、本気で答えを知りたがっているような声だった。

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