崩壊する世界群
世界は、音もなく壊れていた。
空が砕ける。
海が崩れる。
大地が光の粒子となって虚無へ溶けていく。
第五百世界――セレスティア。
王都の広場では、人々が突然立ち止まり、崩れていく空を見上げていた。
誰も状況を理解できない。
子どもが泣き叫び、母親は必死に抱き寄せる。
騎士団は避難を呼び掛けているが、逃げる場所などどこにもなかった。
世界そのものが消え始めているのだから。
世界樹アルファの頂では、エルシアが膝をついた。
「……アルファ。」
黄金の幹へ手を添える。
温もりはまだ残っていた。
だが、鼓動は弱い。
何千年も生命を育み続けてきた世界樹は、静かにその役目を終えようとしていた。
「お願い……。」
エルシアの声は震えていた。
「まだ……眠らないで。」
世界樹は答えない。
一枚の葉が枝から離れ、風もない空をゆっくり舞い落ちる。
それはまるで、世界最後の涙のようだった。
一方、新世界では。
世界樹オメガが激しく揺れていた。
純白だった幹へ黒い亀裂が走り、黄金の葉が次々と枯れていく。
エルディアは幹へ身体を預けたまま苦しそうに息を切らしていた。
「……世界が。」
少女の瞳から涙が零れる。
「壊れちゃう。」
イグニスが支えようと駆け寄る。
「エルディア様!」
「無理をなさらないでください!」
少女は弱々しく首を横へ振った。
「違うの。」
「みんなが……泣いてる。」
その黄金の瞳には、新世界だけではない。
世界群すべてが映っていた。
崩れ落ちる第五百世界。
沈みゆく世界海。
消えていく命。
その全てを、世界樹は感じ取っていた。
神域では、七柱の姿はもうなかった。
残されたのは、最後の観測者シオンだけ。
彼は崩壊する神域の中を駆け抜けていた。
足場は次々と消えていく。
背後では巨大な外界の腕が神域そのものを握り潰し、白い世界は跡形もなく砕け散っていく。
「まだ終われるかよ!」
シオンは虚空を蹴る。
《オブザーバー・レガリア》を握る手へ力を込めた。
「始祖。」
「クロノス。」
「俺は約束した。」
「誰も犠牲にしないって。」
胸の紋章が蒼く輝く。
その光だけが、崩壊する世界群を細い糸のように繋ぎ止めていた。
しかし。
限界は近い。
世界は一つ、また一つと光を失っていく。
その時だった。
虚無の彼方から、小さな光が一つだけ近付いてくる。
最初は星だと思った。
だが違う。
それは人影だった。
白い外套を纏った青年。
蒼と黄金、二色の瞳。
世界が生まれる前から歩き続けていた存在。
エインだった。
「……また会えたな。」
穏やかな笑みは前と変わらない。
シオンは思わず叫ぶ。
「エイン!」
「消えたんじゃ……。」
「消えていない。」
エインは崩壊する世界群を静かに見渡した。
「私は。」
「世界が終わる、その瞬間だけ現れる。」
シオンは歯を食いしばる。
「助けてくれ。」
「このままじゃ全部消える。」
エインは静かに首を横へ振った。
「私にはできない。」
「だが。」
「お前ならできる。」
「俺?」
「シオン。」
エインはまっすぐ少年を見つめた。
「今から見せる。」
「世界が一度だけ滅びた、本当の理由を。」
その言葉と同時に。
虚無の奥深くで。
誰かが静かに目を開いた。
その存在が目覚めた瞬間。
崩壊していた世界群が、一瞬だけ静止する。
シオンは本能で理解した。
REBIRTH最大の敵が。
ついに姿を現そうとしていることを。




