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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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最後の契約

黄金と漆黒。


二つの神威が静かに重なり合う。


創世神・始祖。


記録神・クロノス。


創世以来、互いの理想をぶつけ合い続けた二柱は、初めて肩を並べて立っていた。


神域には、不思議な静けさが流れる。


外界の男は動かない。


七柱も誰一人として口を開かなかった。


始祖が静かに笑う。


「覚えているか、クロノス。」


「何をだ。」


「最初に会った日のことだ。」


クロノスは少しだけ目を細めた。


「ああ。」


「お前がいきなり俺へ剣を向けてきた日だ。」


「違う。」


始祖は苦笑する。


「世界を創ろうと言った日だ。」


クロノスは肩を竦める。


「同じことだ。」


「お前は昔から説明が下手だった。」


「『退屈だから世界を創るぞ』なんて言われて、誰が賛成する。」


神域に小さな笑いが広がる。


レイが本を閉じながら微笑んだ。


「その後、始祖は三日間ずっとクロノスを説得していましたね。」


「説得じゃない。」


クロノスは呆れたように息を吐く。


「延々と夢を語られただけだ。」


アイオーンが懐かしそうに笑う。


「生命が笑う世界。」


「季節が巡る世界。」


「涙も、喜びも存在する世界。」


モイラは静かに目を閉じた。


「始祖は、ずっと楽しそうに話していました。」


始祖は少し照れ臭そうに鼻を掻く。


「若かったからな。」


「いや。」


アダムが首を横へ振った。


「今でも同じです。」


「あなたは何億年経っても、世界を語る時だけは少年の顔になる。」


始祖は照れ笑いを浮かべた。


「そうかもしれんな。」


シオンはそのやり取りを静かに見つめていた。


創世神。


記録神。


秩序神。


時間神。


因果神。


可能性神。


観測神。


神話でしか語られない存在たちが、まるで昔からの仲間のように笑い合っている。


そこには威厳も神格もなかった。


長い旅を共にした友人たちの姿だけがあった。


クロノスがふとシオンを見る。


「少し意外そうな顔だな。」


「いや……。」


シオンは正直に答えた。


「もっと神様らしい連中だと思ってた。」


クロノスは吹き出す。


「始祖。」


「聞いたか。」


「神様らしくないらしいぞ。」


始祖も笑った。


「当たり前だ。」


「神になる前は、みんな普通だった。」


レイも頷く。


「神という肩書きは後から付いただけです。」


「最初は皆、一人の旅人でした。」


その言葉を聞いた瞬間、シオンの胸の奥で何かが繋がった。


神だから世界を創ったのではない。


世界を守り続けた結果、神と呼ばれるようになっただけなのだ。


その空気を破るように、外界の男が一歩前へ出る。


「会話。」


「感情。」


「記憶。」


「理解不能。」


男の足元から黒い波紋が広がり、神域の白い大地を侵食していく。


七柱は同時に前へ出た。


始祖が黄金の剣を掲げる。


「時間だ。」


アダムは契約書を開き、最後の頁を静かにめくった。


そこには、空白だった八つ目の署名欄がある。


アダムはシオンへ契約書を差し出した。


「最後の観測者。」


「これが最後の契約です。」


シオンは契約書を見つめた。


「これに署名したら、どうなる。」


アダムは迷うことなく答える。


「世界群と、お前の存在が一つになります。」


「法則そのものになる。」


「つまり……神になるのか。」


「違います。」


答えたのは始祖だった。


「神ではない。」


「神を超えた観測者になる。」


神域が静まり返る。


シオンは契約書から視線を外し、始祖を見る。


「それって。」


「もう普通には生きられないってことだろ。」


始祖は微笑む。


「そうだ。」


「仲間とも。」


「家族とも。」


「同じ時間は歩めない。」


「永遠に世界を見守る存在になる。」


シオンは黙った。


ルナリアの笑顔が脳裏に浮かぶ。


アリア。


レオニクス。


ヴォルグ。


エルディア。


第五百世界で出会った仲間たち。


一緒に笑い、泣き、戦ってきた日々。


その全てを置いていくことになる。


「……嫌だ。」


小さく漏れた本音だった。


「俺は神になりたいわけじゃない。」


「みんなと帰りたい。」


その一言に、始祖は優しく笑った。


「だから。」


「お前へ託す。」


「私達では辿り着けなかった答えを。」


シオンは俯いたまま拳を握る。


「でも……。」


「誰も犠牲にしないって決めたんだ。」


「俺まで犠牲になったら意味がない。」


始祖は静かに頷いた。


「その答えでいい。」


「え?」


「契約する必要はない。」


シオンは顔を上げた。


アダムも驚いて始祖を見る。


「始祖!」


始祖は契約書を静かに閉じた。


「契約へ頼る時代は終わった。」


「新しい世界は。」


「新しい選択で守る。」


クロノスの口元に笑みが浮かぶ。


「やっと、お前らしい答えになったな。」


始祖は照れ臭そうに笑い返す。


「ああ。」


「何億年も遠回りをした。」


「ようやく気付いた。」


黄金の剣が静かに天へ掲げられる。


「世界は契約じゃない。」


「命が繋ぐものだ。」


その言葉と同時に、始祖の全身から眩い黄金の粒子が溢れ始めた。


シオンは目を見開く。


「始祖……!」


始祖は静かに振り返り、少年へ最後の笑顔を向けた。


「ここから先は。」


「お前達の時代だ。」


黄金の光が神域全体を包み込む。


創世神は、自らの神格を解放しようとしていた。

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