始祖の告白
パキッ――。
静寂の神域に、小さな亀裂が響く。
七柱目の神像。
最後まで名を伏せられていた存在。
その胸元から赤黒い光が漏れ始めていた。
始祖の黄金の瞳が鋭く細められる。
「封印が……弱まっている。」
シオンは《オブザーバー・レガリア》へ手を添えた。
「何が封印されてる。」
始祖はすぐには答えなかった。
ただ、七柱の神像を静かに見つめている。
長い沈黙。
やがて。
静かな声で語り始めた。
「……私は。」
「ずっと嘘をついていた。」
シオンは始祖を見る。
黄金の瞳には深い後悔が宿っていた。
「世界を創ったのは私だ。」
「それは事実。」
「だが。」
「世界を”完成”させたのは私ではない。」
静寂。
始祖は七柱の神像を見渡す。
「この七柱は。」
「それぞれ世界の法則を司っていた。」
始祖は一柱ずつ指を向ける。
「私は生命。」
「クロノスは記録。」
「アダムは秩序。」
「レイは観測。」
さらに奥の神像を見つめる。
「第五柱は時間。」
「第六柱は因果。」
そして。
最後の神像へ視線を向けた。
「第七柱は。」
その瞬間。
神像全体へ赤い亀裂が走る。
ズガァァァァァァァン!!
巨大な神像が揺れる。
始祖は苦しそうに目を閉じた。
「……可能性。」
シオンは眉をひそめる。
「可能性?」
始祖は頷く。
「未来には無限の可能性がある。」
「希望も。」
「絶望も。」
「進化も。」
「滅びも。」
「その全てを司っていた神。」
「それが第七柱だった。」
シオンは神像を見上げる。
赤い光はさらに強くなっていく。
「名前は?」
始祖は静かに答えた。
「……ルシエル。」
その名が響いた瞬間だった。
ドクン――――!!
七柱目の神像が鼓動した。
まるで生きているように。
赤い瞳がゆっくりと開いていく。
始祖が静かに拳を握る。
「私は。」
「ルシエルを封印した。」
シオンは目を見開く。
「封印?」
「なぜ。」
始祖の表情が苦しみに歪む。
「可能性には限界がなかった。」
「一つの未来だけでは満足できず。」
「無限の未来を創ろうとした。」
「その結果。」
黄金の瞳が震える。
「世界は崩壊しかけた。」
シオンは息を呑む。
「だから封印したのか。」
始祖は首を横へ振る。
「違う。」
静かな否定だった。
「私一人では封印できなかった。」
「クロノス。」
「アダム。」
「レイ。」
「七柱全員で。」
「ようやく封印した。」
世界が静まり返る。
シオンはようやく理解する。
始祖が一人で世界を創ったわけではない。
七柱全員で世界という法則を完成させた。
そして。
その仲間の一人を、自らの手で封印した。
始祖は小さく笑う。
「だから私は。」
「創世神なんて呼ばれる資格はない。」
「私は。」
「仲間を裏切った神だ。」
その言葉に。
シオンは静かに始祖の前へ立つ。
「違う。」
始祖が顔を上げる。
「一人で抱え込んだだけだ。」
「誰かを守るために。」
「誰かを犠牲にした。」
「それを背負ってきた。」
シオンは真っ直ぐ始祖を見つめる。
「俺も同じだった。」
黒星王。
終焉。
世界再構築。
多くの選択をしてきた。
だからこそ分かる。
始祖は逃げたわけではない。
苦しみ続けてきたのだ。
その時だった。
七柱目の神像が完全に目を開く。
ゴォォォォォォォォォォ……
深紅の瞳。
その視線が。
真っ直ぐシオンへ向けられる。
始祖でもない。
クロノスでもない。
最後の観測者だけを見つめていた。
そして。
神像の口元が。
ゆっくりと動く。
『……ようやく。』
低い声が神域へ響く。
『会えたね。』
『最後の観測者。』
シオンの瞳が揺れる。
その声には敵意がなかった。
むしろ。
何億年も待ち続けた者だけが持つ、安堵が滲んでいた。
神域は再び静寂に包まれる。
しかし。
シオンは直感する。
ここから先が。
REBIRTH最大の真実へ繋がる扉なのだと。




