世界の管理者
世界樹オメガ。
純白の巨木は天を貫きながら成長を続けていた。
枝葉は雲を突き抜け、根は大地の奥深くまで広がっていく。
その巨大さは、世界樹アルファをも遥かに凌いでいた。
しかし。
美しい。
それが最初の印象だった。
黄金に輝く葉。
透き通る純白の幹。
優しく舞い散る光の粒子。
まるで命そのものが形になったような神秘的な姿。
それなのに。
シオンの観測者の本能だけが警鐘を鳴らし続けていた。
「あれは違う……。」
蒼い瞳が細められる。
「生命じゃない。」
「世界そのものだ。」
始祖は静かに頷いた。
「その通り。」
黄金の瞳は世界樹オメガを見つめたまま。
「オメガは一本の樹ではない。」
「世界そのものが自らを修復するための意思。」
「世界の自浄機構だ。」
静寂。
シオンは驚きを隠せない。
「世界が自分で……?」
始祖はゆっくり答える。
「生命は病に侵されれば熱を出す。」
「傷付けば血を流し、やがて治癒する。」
「世界も同じだ。」
「均衡が崩れれば、自ら修復を始める。」
その言葉を聞いたイグニスが静かに笑った。
「さすが創世神。」
「理解が早い。」
仮面の奥の金色の瞳が妖しく輝く。
「世界樹オメガは破壊者ではありません。」
「世界を元へ戻すための存在です。」
シオンは剣を握り締める。
「村を消しておいて、それを修復と言うのか。」
イグニスは悲しそうに首を振る。
「違います。」
「私は誰も憎んではいません。」
「この村も。」
「あなた方も。」
「ただ。」
「世界が生き残るためには必要なのです。」
その時だった。
純白の根が一軒の家を包み込む。
村人達が悲鳴を上げる。
「お父さん!」
少女が泣き叫ぶ。
しかし。
根に触れられた家は壊れなかった。
崩れもしない。
燃えもしない。
ただ。
光となって静かに消えていく。
住んでいた家族も。
苦しむことなく。
眠るように姿を消した。
シオンの拳が震える。
「……何をした。」
イグニスは静かに答える。
「還しました。」
「生命を。」
「世界へ。」
始祖が苦しそうに目を閉じる。
「やめろ……。」
イグニスは創世神を見る。
「始祖。」
「あなたは世界を愛した。」
「だから生命を創った。」
「ですが。」
「私は世界そのものを愛しています。」
「一つの命より。」
「一つの文明より。」
「世界が永遠であることの方が大切なのです。」
シオンはその言葉を聞いて思い出す。
ゼノス。
終焉。
クロノス。
そして今。
誰もが守りたいものは違う。
だから争う。
世界を守る者同士が。
敵になる。
その時だった。
世界樹オメガの幹に無数の紋章が浮かび上がる。
シオンは観測者の瞳で解析する。
「これは……!」
観測者権能が高速で演算を始める。
一つ。
二つ。
百。
千。
膨大な情報が流れ込む。
やがて。
一つの真実へ辿り着いた。
シオンは驚愕する。
「始祖!」
「オメガは樹じゃない!」
始祖が振り向く。
「何だと?」
シオンは純白の巨木を指差す。
「あの中に。」
「あの幹の中心に。」
「誰かがいる!」
静寂。
イグニスの笑みが初めて消えた。
「……見えたのですか。」
シオンは確信していた。
巨大な幹の中心。
幾重にも絡み合う根の奥。
そこには。
一人の少女が眠っている。
銀色の髪。
白い衣。
胸元には黄金の世界樹の紋章。
まるで樹と一体化するように。
静かに眠り続けていた。
始祖の黄金の瞳が大きく見開かれる。
「そんな……。」
「まだ眠っていたのか。」
シオンは始祖を見る。
「あの子を知ってるのか?」
始祖は震える声で答えた。
「あの子は……。」
「私が。」
「最初に創った命だ。」
世界が静まり返る。
イグニスは深く頭を下げる。
「紹介しましょう。」
「世界樹オメガの核。」
「世界を終わらせ。」
「そして再び始める者。」
仮面の奥の瞳が静かに輝く。
「彼女の名は――」
「エルディア。」
その名前が世界へ響いた瞬間。
純白の世界樹オメガが。
ゆっくりと脈動を始めた。
ドクン――。
まるで。
眠り続けていた少女が。
目を覚まそうとしているかのように。




