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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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沈黙の都

時計塔の屋根から。


黒い人影は跡形もなく消えていた。


風だけが静かに吹き抜ける。


シオンはしばらくその場所を見つめていた。


「……クロノスだった。」


小さく呟く。


始祖は否定もしない。


肯定もしない。


ただ静かに村を見つめていた。


少女は二人の様子を不思議そうに見上げる。


「どうしたの?」


シオンは優しく笑う。


「いや。」


「何でもない。」


少女は安心したように笑顔を浮かべた。


「それならよかった!」


そう言うと、シオンの手を掴む。


「村へ行こう!」


「みんな旅人さんに会ったら喜ぶよ!」


その笑顔には一点の曇りもなかった。


シオンは始祖へ視線を向ける。


始祖は静かに頷く。


「行こう。」


三人はゆっくりと村への道を歩き始めた。


石畳の小道。


道端には色鮮やかな花々が咲き誇っている。


澄んだ川には小魚が泳ぎ、子ども達が楽しそうに水遊びをしていた。


誰も武器を持たない。


誰も怯えない。


第五百世界では考えられないほど穏やかな景色だった。


「こんにちはー!」


少女が元気よく手を振る。


畑で作業していた老人が笑顔で応える。


「おや、新しい旅人さんか。」


「珍しいねぇ。」


パンを焼いていた女性が焼きたてのパンを差し出す。


「よかったら食べていって。」


子ども達がシオンの周りへ集まる。


「お兄ちゃん強そう!」


「旅してるの?」


「外の世界ってどんなところ?」


質問攻めだった。


シオンは少し照れ臭そうに笑う。


「そんな大したもんじゃないよ。」


始祖はその光景を静かに見つめていた。


黄金の瞳はどこか懐かしそうだった。


「……変わらない。」


小さく漏れた言葉。


シオンが振り返る。


「知ってる村なのか?」


始祖はゆっくり歩き出す。


村の中央広場。


そこには古い石碑が建っていた。


高さは三メートルほど。


年月を感じさせる風化した石。


しかし、一文字だけは今でも鮮明に刻まれている。


《始まり》


始祖は石碑へそっと手を添えた。


「この村は。」


静かな声。


「私が最初に創った集落だ。」


シオンの目が見開かれる。


「最初……?」


「世界が生まれ。」


「生命が芽吹き。」


「初めて人々が暮らした場所。」


「それが、この村だ。」


シオンは周囲を見回した。


何の変哲もない村。


だが。


世界中の文明。


国家。


王国。


その全ての始まりが、ここだった。


「信じられないな……。」


始祖は少しだけ笑う。


「今では誰も知らない。」


「その方が幸せなんだ。」


その時だった。


鐘の音が響く。


ゴォォォォォン……


時計塔の鐘。


村人達が一斉に空を見上げた。


先ほどまで青かった空。


その一点だけが黒く染まり始めている。


「……?」


少女も首を傾げる。


「こんなの初めて。」


始祖の表情が変わる。


穏やかな笑顔が消えた。


「来る。」


短い一言。


シオンの観測者の紋章が激しく脈打つ。


ドクン――。


ドクン――。


空間そのものが歪む。


時計塔の上。


何もなかった場所へ。


黒い霧が集まり始める。


ゆっくりと。


ゆっくりと。


一人の人物が姿を現す。


黒いローブ。


銀色の仮面。


その胸には、見覚えのない紋章が刻まれていた。


円環の中心に、逆さまの世界樹。


シオンは目を細める。


「あいつは……。」


始祖もその紋章を見た瞬間、僅かに息を呑む。


「まさか……。」


黒衣の人物はゆっくりと両腕を広げる。


そして村全体へ響く声で告げた。


「ようやく見つけました。」


静かな声。


しかし、その声には圧倒的な威圧感が宿っていた。


「創世神。」


「最後の観測者。」


「そして――」


仮面の奥で。


金色の瞳が妖しく輝く。


「世界樹オメガ。」


その名が発せられた瞬間。


村の地下深くから。


巨大な鼓動が響き始めた。


ドクン――――。


ドクン――――。


ドクン――――。


まるで何かが。


長い眠りから目覚めようとしているかのように。


始祖の黄金の瞳が大きく見開かれる。


「そんな馬鹿な……。」


「まだ眠っていたはずだ。」


静かな村は。


その日初めて。


戦場へと姿を変えようとしていた。

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