創世の約束
黄金と漆黒。
二本の神剣が交差した瞬間。
世界そのものが沈黙した。
ガァァァァァァァァァァン――――!!
衝撃は始まりの回廊だけでは終わらない。
世界海を越え。
無数の世界を越え。
第五百世界・セレスティアにまで届いていた。
夜空が揺れる。
世界樹アルファが微かに光を放つ。
王都セレスティアでは、人々が一斉に空を見上げていた。
理由は誰にも分からない。
だが。
誰もが胸の奥で同じことを感じていた。
何かが始まる。
世界の運命が再び動き出したのだと。
───
始まりの回廊。
黄金の剣と漆黒の剣は激しく鍔迫り合う。
始祖は一歩も引かない。
クロノスもまた退かない。
二人は互いを見つめていた。
敵としてではない。
かつて共に未来を語り合った親友として。
「覚えているか。」
始祖が静かに口を開く。
「最初の世界を創った日のことを。」
クロノスは何も答えない。
始祖は小さく笑った。
「お前は言った。」
『いつか世界は、自分達を超える存在を生み出す。』
「私は笑った。」
『そんな日は来ない。』
「そう答えた。」
静寂。
クロノスはゆっくり目を閉じる。
「……覚えている。」
赤い瞳がわずかに揺れた。
「だから絶望した。」
「何億もの世界を見た。」
「何億もの命を見送った。」
「誰一人。」
「運命には勝てなかった。」
始祖は静かに首を振る。
「違う。」
黄金の瞳がシオンを見る。
「勝った者がいる。」
シオンは驚く。
「俺……?」
始祖は微笑んだ。
「ああ。」
「第五百世界。」
「黒星王。」
「観測者。」
「君は初めて運命を書き換えた。」
クロノスの瞳が細くなる。
「……だから危険なんだ。」
黒い霧が激しく吹き荒れる。
「一つの奇跡は。」
「やがて無限の歪みを生む。」
「世界は均衡で成り立つ。」
「運命を変える者が現れれば。」
「さらに大きな終焉が訪れる。」
始祖は静かに剣を下ろした。
その行動にシオンもオルディスも息を呑む。
「戦わないのか?」
シオンが問う。
始祖は首を横に振る。
「戦っても意味はない。」
「クロノスは倒せない。」
「私も倒せない。」
「私達は。」
「世界そのものだから。」
静寂。
二柱は互いに剣を収めた。
クロノスはシオンへ歩み寄る。
その赤い瞳に敵意はなかった。
「最後の観測者。」
低い声が響く。
「次に会う時。」
「お前は選ぶことになる。」
「世界を守るか。」
「世界を創り直すか。」
「そのどちらかを。」
シオンは真っ直ぐ見返す。
「違う。」
静かな声だった。
「俺はどっちも選ばない。」
クロノスの眉がわずかに動く。
「世界は守る。」
「でも。」
「誰かを犠牲にして創り直したりもしない。」
「そんな未来は認めない。」
始祖が穏やかに笑う。
クロノスも一瞬だけ笑った。
本当に一瞬だけ。
「……やはり。」
「お前は私達とは違う。」
その言葉を最後に。
クロノスの身体が黒い粒子となって崩れ始める。
忘却の神殿も。
黒い柱も。
赤い霧も。
すべてが静かに消えていく。
「また会おう。」
「最後の観測者。」
「その時こそ。」
「全ての真実を教えてやる。」
赤い瞳が最後に細められる。
そして。
クロノスは完全に姿を消した。
始まりの回廊に静寂が戻る。
始祖は深く息を吐く。
「ありがとう。」
シオンは首を傾げる。
「何がだ。」
始祖は優しく微笑む。
「私は何億年もの間。」
「未来を信じられなくなっていた。」
黄金の瞳が細められる。
「だが。」
「君を見て。」
「もう一度信じてみたくなった。」
その瞬間。
始まりの回廊の最奥。
閉ざされていた巨大な扉が、ゆっくりと音を立てて開き始めた。
ゴォォォォォォォォォ……
その先には。
光でも闇でもない。
まだ誰も踏み入れたことのない世界が広がっている。
始祖はその景色を見つめながら静かに告げた。
「さあ行こう。」
「最後の観測者。」
「ここから先が。」
「新世界だ。」
シオンは蒼い瞳でその世界を見据える。
五百回の運命を超えた少年は。
再び一歩を踏み出した。
その先に待つ。
誰も知らない未来へ。




