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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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222/302

忘却の神殿

真紅の瞳だった。


黒い柱の亀裂、その奥。


暗闇だけが広がるはずの空間で、二つの赤い光が静かにシオンを見つめていた。


ドクン――。


観測者の紋章が激しく脈打つ。


それは危険を知らせる警告ではない。


もっと根源的な感覚。


「見てはならないものを見た」


そんな本能だった。


「……誰だ。」


シオンは静かに問い掛ける。


返事はない。


ただ、赤い瞳だけが微かに細められた。


次の瞬間。


バキィィィィィン!!


黒い柱に無数の亀裂が走る。


創世の記録が崩れ始める。


始祖と黒衣の青年の姿がノイズに飲み込まれ、世界そのものが砂のように崩壊していく。


「まずい!」


オルディスの声が響く。


「記録が消されます!」


シオンは咄嗟に柱へ手を伸ばした。


蒼い観測者の光が柱全体を包み込む。


「《記録固定》!」


世界を書き換える力ではない。


世界を”観測し続ける”ことで、その存在を固定する観測者の権能。


蒼い光が黒い柱へ流れ込む。


崩壊は止まった。


だが。


赤い瞳は笑っていた。


『……面白い。』


低い声。


男とも女とも判別できない。


だが、その声には冷たい愉悦が混じっていた。


シオンの瞳が鋭くなる。


「喋った。」


『最後の観測者。』


『ようやくここまで来たか。』


静寂。


シオンは記憶を探る。


聞いたことがない声。


創造主の記録にもない。


終焉の記憶にも存在しない。


始祖とも違う。


完全な未知だった。


その時。


オルディスの顔色が変わる。


「そんな……。」


老人の身体が震えている。


「存在するはずがない……。」


シオンが振り返る。


「知ってるのか?」


オルディスはゆっくり頷いた。


白い瞳には恐怖が浮かんでいた。


「古い伝承です。」


「世界海が生まれる以前。」


「始祖と共に創世へ立ち会った者が、ただ一人いたとされています。」


シオンは黙る。


オルディスは震える声で続けた。


「しかし、その存在は全ての記録から消された。」


「名前も。」


「姿も。」


「歴史も。」


「誰一人、その存在を覚えていない。」


赤い瞳が静かに輝く。


『当然だ。』


『私が、自分自身を消したのだから。』


世界が静まり返る。


シオンの瞳が細くなる。


「自分で?」


『記録とは厄介だからな。』


『残せば、いずれ誰かが辿り着く。』


『だから私は消えた。』


『世界から。』


『歴史から。』


『記憶から。』


その言葉が終わると同時に。


黒い柱の亀裂がさらに広がる。


ゴォォォォォォォォォ……


柱の奥から、一つの建造物が姿を現した。


巨大な神殿。


漆黒の石で築かれた古代建築。


天井は見えない。


壁には無数の文字。


中央には巨大な玉座。


だが。


誰も座っていない。


「……神殿。」


シオンが呟く。


オルディスは深く息を吐いた。


「《忘却の神殿》。」


「最初の時代に封印された場所です。」


「始祖ですら立ち入らなかった禁域。」


シオンは玉座を見つめる。


誰もいない。


なのに。


気配だけがある。


確かに誰かが座っている。


目では見えない。


だが。


観測者の瞳だけが、その輪郭を捉えていた。


黒い外套。


長い髪。


顔は見えない。


ただ。


赤い瞳だけが静かに輝いている。


『ここまで来た褒美だ。』


その人物は玉座へ深く腰掛けた。


『最後の観測者。』


『一つだけ教えてやろう。』


シオンは剣へ手を添える。


「何だ。」


赤い瞳がゆっくり細められる。


そして。


静かに笑った。


『始祖は、この世界を創った。』


『だが。』


『世界を”始めた”存在ではない。』


静寂。


シオンの鼓動が速くなる。


『創世より前に。』


『さらに古い時代が存在する。』


その瞬間。


忘却の神殿全体が激しく揺れた。


ズガァァァァァァァァン――――!!


天井から黒い光が降り注ぐ。


神殿が崩れ始める。


オルディスが叫ぶ。


「離れてください!」


「封印が限界です!」


だが。


赤い瞳の人物だけは微動だにしなかった。


『次は。』


『私の名前を思い出してから来い。』


その言葉を最後に。


神殿は漆黒の光へ包まれる。


視界が真っ白に染まり。


シオンの意識は再び始まりの回廊へ引き戻されていった。


ただ一つだけ。


玉座に残された赤い瞳だけが。


最後まで静かに笑っていた。

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