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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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22/63

「氷晶将」

激突しようとしていた。


その言葉を証明するように。


セラフィナ・フロストはゆっくりと右手を持ち上げた。


静かな動作だった。


だが、その瞬間。


アストレア上空の空気が一変する。


ピシッ――


どこかで氷が軋む音が響いた。


続いて二度。


三度。


そして一気に世界が白く染まり始める。


「まずい……」


防衛隊の兵士が顔を青ざめさせた。


「来るぞ……!」


教団軍ですら動揺していた。


七星将。


氷晶将。


その本気を知る者は少ない。


そして。


知った者の大半は生き残っていない。


セラフィナの背後に巨大な魔法陣が展開される。


一枚。


二枚。


十枚。


百枚。


蒼白い光が夜空を覆っていく。


まるで空そのものが巨大な術式へ変貌していくようだった。


アストレア中の人々が空を見上げる。


子供が泣く。


研究者達が震える。


市民達は言葉を失っていた。


ただ一人。


シオンだけが静かだった。


黒い粒子が身体の周囲を漂う。


漆黒の瞳は真っ直ぐセラフィナを見つめている。


「危険対象認定」


セラフィナが告げる。


声に感情はない。


いつも通り。


命令通り。


完璧な兵器。


それが氷晶将だった。


「黒星王」


蒼い瞳が細められる。


「最優先殲滅対象」


魔法陣が輝く。


世界が震えた。


次の瞬間。


轟音と共に無数の氷晶が出現する。


空を埋め尽くすほどの数。


一つ一つが戦艦を貫く威力を持つ氷の槍。


その数は数万を超えていた。


いや。


増え続けている。


まるで空そのものが氷へ変わろうとしていた。


「終わりだ……」


誰かが呟いた。


無理もない。


あれを防ぐ方法など存在しない。


都市一つを滅ぼす術式。


国家を消し飛ばす災害。


それがセラフィナの本気だった。


ガルドが歯を食いしばる。


「相変わらず派手だな……!」


紅蓮の炎が大剣へ集まる。


いつでも飛び出せるように。


しかし。


シオンは右手を上げて制した。


「シオン?」


ルナリアが不安そうに呼ぶ。


黒い瞳が静かに向けられた。


「大丈夫だ」


短い言葉。


だが不思議と安心感があった。


ルナリアは息を呑む。


そこにいるのは確かにシオンだった。


力に飲まれていない。


ちゃんと自分の意志を持っている。


だからこそ。


彼女は見守ることを選んだ。


セラフィナが右手を振り下ろす。


「絶対零域」


空が白く染まる。


「終焉氷華」


放たれた。


数万の氷晶。


絶対零度の死。


白い嵐がアストレアへ降り注ぐ。


それはまさしく世界の終焉だった。


だが。


シオンは動かない。


逃げない。


構えない。


ただ空を見上げる。


そして。


小さく呟いた。


「そんな力じゃ」


黒い粒子が揺れる。


「救えない」


ゆっくりと右手を握る。


パキン――


小さな音だった。


しかし。


世界は変わった。


空中で氷晶が停止する。


数万の氷槍。


全てが。


完全に。


その場で止まった。


時間が止まったかのような光景。


誰も呼吸を忘れる。


そして。


氷晶が崩れた。


砕けるのではない。


消滅している。


存在そのものが否定されていく。


光へ還る。


粒子へ還る。


まるで最初から存在していなかったかのように。


数秒後。


空に残ったのは夜風だけだった。


沈黙。


圧倒的な沈黙。


セラフィナの瞳が揺れる。


初めてだった。


自分の力を真正面から否定されたのは。


「……ありえない」


その呟きは。


氷晶将ではなく。


一人の少女の声だった。


シオンは静かに空を見上げる。


そして。


優しい声で言った。


「もうやめろ」


セラフィナの身体が止まる。


「……なぜ」


「お前」


シオンは真っ直ぐ見つめる。


「本当は戦いたくないんだろ」


その言葉が。


彼女の凍てついた心へ届いた。


セラフィナの瞳が大きく揺れる。


忘れたはずの何かが。


胸の奥で軋み始めていた――。

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