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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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22/166

「氷晶将」

激突しようとしていた。


その言葉を証明するように。


セラフィナ・フロストはゆっくりと右手を持ち上げた。


静かな動作だった。


だが、その瞬間。


アストレア上空の空気が一変する。


ピシッ――


どこかで氷が軋む音が響いた。


続いて二度。


三度。


そして一気に世界が白く染まり始める。


「まずい……」


防衛隊の兵士が顔を青ざめさせた。


「来るぞ……!」


教団軍ですら動揺していた。


七星将。


氷晶将。


その本気を知る者は少ない。


そして。


知った者の大半は生き残っていない。


セラフィナの背後に巨大な魔法陣が展開される。


一枚。


二枚。


十枚。


百枚。


蒼白い光が夜空を覆っていく。


まるで空そのものが巨大な術式へ変貌していくようだった。


アストレア中の人々が空を見上げる。


子供が泣く。


研究者達が震える。


市民達は言葉を失っていた。


ただ一人。


シオンだけが静かだった。


黒い粒子が身体の周囲を漂う。


漆黒の瞳は真っ直ぐセラフィナを見つめている。


「危険対象認定」


セラフィナが告げる。


声に感情はない。


いつも通り。


命令通り。


完璧な兵器。


それが氷晶将だった。


「黒星王」


蒼い瞳が細められる。


「最優先殲滅対象」


魔法陣が輝く。


世界が震えた。


次の瞬間。


轟音と共に無数の氷晶が出現する。


空を埋め尽くすほどの数。


一つ一つが戦艦を貫く威力を持つ氷の槍。


その数は数万を超えていた。


いや。


増え続けている。


まるで空そのものが氷へ変わろうとしていた。


「終わりだ……」


誰かが呟いた。


無理もない。


あれを防ぐ方法など存在しない。


都市一つを滅ぼす術式。


国家を消し飛ばす災害。


それがセラフィナの本気だった。


ガルドが歯を食いしばる。


「相変わらず派手だな……!」


紅蓮の炎が大剣へ集まる。


いつでも飛び出せるように。


しかし。


シオンは右手を上げて制した。


「シオン?」


ルナリアが不安そうに呼ぶ。


黒い瞳が静かに向けられた。


「大丈夫だ」


短い言葉。


だが不思議と安心感があった。


ルナリアは息を呑む。


そこにいるのは確かにシオンだった。


力に飲まれていない。


ちゃんと自分の意志を持っている。


だからこそ。


彼女は見守ることを選んだ。


セラフィナが右手を振り下ろす。


「絶対零域」


空が白く染まる。


「終焉氷華」


放たれた。


数万の氷晶。


絶対零度の死。


白い嵐がアストレアへ降り注ぐ。


それはまさしく世界の終焉だった。


だが。


シオンは動かない。


逃げない。


構えない。


ただ空を見上げる。


そして。


小さく呟いた。


「そんな力じゃ」


黒い粒子が揺れる。


「救えない」


ゆっくりと右手を握る。


パキン――


小さな音だった。


しかし。


世界は変わった。


空中で氷晶が停止する。


数万の氷槍。


全てが。


完全に。


その場で止まった。


時間が止まったかのような光景。


誰も呼吸を忘れる。


そして。


氷晶が崩れた。


砕けるのではない。


消滅している。


存在そのものが否定されていく。


光へ還る。


粒子へ還る。


まるで最初から存在していなかったかのように。


数秒後。


空に残ったのは夜風だけだった。


沈黙。


圧倒的な沈黙。


セラフィナの瞳が揺れる。


初めてだった。


自分の力を真正面から否定されたのは。


「……ありえない」


その呟きは。


氷晶将ではなく。


一人の少女の声だった。


シオンは静かに空を見上げる。


そして。


優しい声で言った。


「もうやめろ」


セラフィナの身体が止まる。


「……なぜ」


「お前」


シオンは真っ直ぐ見つめる。


「本当は戦いたくないんだろ」


その言葉が。


彼女の凍てついた心へ届いた。


セラフィナの瞳が大きく揺れる。


忘れたはずの何かが。


胸の奥で軋み始めていた――。

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