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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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「黒星王vs 氷晶将」

静寂だった。


それは戦いの終わりではない。


むしろ、全ての始まりを告げる静寂だった。


アストレア上空を覆っていた轟音が消えている。


戦艦級飛空艇の主砲。


教団軍の怒号。


防衛隊の叫び。


氷晶将セラフィナが生み出した極寒の嵐。


その全てが遠く感じられた。


世界樹の中心から放たれる漆黒の光だけが、世界を支配していた。


空が黒く染まる。


夜ではない。


雲でもない。


もっと異質な何かだった。


まるで世界そのものが黒く塗り潰されていくような錯覚。


誰もが空を見上げていた。


市民も。


兵士も。


研究者も。


教団軍も。


七星将でさえも。


全員が同じ方向を見ている。


世界樹の根元。


黒い光の中心。


そこに一人の少年が立っていた。


シオン・アルヴィス。


その姿は確かにシオンだった。


黒髪。


蒼い瞳。


見慣れた姿。


だが、何かが違う。


決定的に違う。


彼の周囲を漂う無数の黒い粒子。


重力すら歪めるような圧力。


存在しているだけで空間が軋む異様な気配。


誰も近付けない。


近付いてはいけないと本能が警告していた。


「何だ……あれ……」


防衛隊の兵士が震える声で呟いた。


誰も答えられない。


言葉にできない。


理解できない。


ただ恐ろしい。


ただ異常だった。


教団軍の兵士達も動揺していた。


「あれが黒星晶保持者なのか……?」


「違う……」


「違うぞ……」


誰かが青ざめながら首を振る。


「こんなの資料にない……」


「黒星晶なんてレベルじゃない……」


誰もが感じていた。


目の前にいる存在は、人間の枠を超え始めている。


その時だった。


世界樹の近くにいた若い研究員が腰を抜かした。


「星晶が……」


震える指で手元の魔導端末を示す。


「消えてる……!」


周囲の研究員達が一斉に端末を確認した。


そして凍り付く。


異常事態だった。


アストレア全域の星晶反応が急激に減少している。


魔導灯が消える。


結界が揺らぐ。


通信装置が停止する。


文明を支えていた星晶エネルギーが、次々と沈黙していく。


あり得ない。


星晶は世界そのものだ。


空を浮かせる力。


文明を支える力。


生命を循環させる力。


それが消えるなど。


理論上あり得ない。


だが現実に起きていた。


レオニクスは静かにその光景を見つめていた。


蒼い瞳に宿るのは驚愕ではない。


確信だった。


「やはり……」


彼は小さく呟く。


「そうか」


長い年月をかけて集めた禁書。


失われた文明の記録。


古代遺跡から発掘された断片。


その全てが示していた存在。


黒星王。


世界を終わらせる者。


そして。


世界を救う者。


「レオニクス!」


ガルドが叫ぶ。


「説明しろ!」


炎牙の傭兵王ですら表情を硬くしていた。


目の前で起きている現象が理解できない。


レオニクスは視線を外さないまま答えた。


「黒星晶の本質だ」


「何?」


「星晶を破壊しているのではない」


静かな声。


だが重い。


「否定している」


沈黙。


誰も意味が分からなかった。


レオニクスは続ける。


「星晶が存在するという事実そのものを否定している」


ルナリアの顔色が変わる。


「そんなこと……」


「本来なら不可能だ」


レオニクスは頷いた。


「だから黒星王は神話になった」


誰も言葉を失う。


神話。


禁忌。


伝説。


それらが今、目の前で現実になっていた。


その時。


シオンがゆっくりと目を開いた。


漆黒の瞳。


底知れない闇。


だが狂気はない。


理性もある。


意識もある。


それが逆に恐ろしかった。


圧倒的な力を持ちながら、彼は自分自身であり続けている。


シオンは静かに手を見る。


黒い粒子が指先を流れている。


不思議な感覚だった。


世界が見える。


風の流れ。


星晶の循環。


人々の感情。


生命の鼓動。


全てが分かる。


まるで世界そのものと繋がったようだった。


そして。


記憶が流れ込んでくる。


知らない景色。


知らない人々。


知らない戦い。


だが、どれも自分だった。


燃える都市。


崩壊する空。


泣き叫ぶ人々。


そして。


何度も繰り返される終焉。


「……そういうことか」


小さく呟く。


その声にルナリアが反応した。


「シオン……?」


彼は振り返る。


黒い瞳。


だがその奥には確かにシオンがいた。


「大丈夫だ」


静かな声。


「俺は俺だ」


ルナリアは少しだけ安心した。


完全にではない。


だが、その言葉だけで十分だった。


シオンは空を見上げる。


そこにはまだ氷晶将セラフィナがいる。


無数の教団軍。


戦艦級飛空艇。


そして終わらない戦争。


だが今。


全員が動けなかった。


黒星王の誕生を目撃してしまったから。


セラフィナは静かにシオンを見つめていた。


蒼い瞳が揺れている。


彼女は理解していた。


目の前の存在が、自分の知るどんな敵より危険であることを。


そして。


同時に。


どこか悲しそうな瞳をしていることも。


風が吹く。


黒い粒子が夜空へ舞い上がる。


静寂は終わる。


次の瞬間。


氷晶将セラフィナ・フロストがゆっくりと右手を持ち上げた。


アストレア上空に、巨大な蒼い魔法陣が出現する。


七星将。


氷晶将。


最強の兵器。


彼女はまだ戦うつもりだった。


シオンは静かにその姿を見上げる。


黒星王と氷晶将。


二つの力が、ついに真正面から激突しようとしていた。

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