旅人の誓い
蒼い光が世界海を貫いた。
『最終観測権限――一時解放』
その宣言と共に。
最後の観測者の力は限界を超える。
シオンの蒼い瞳が黄金へと染まり。
その背後に無数の光輪が浮かび上がった。
一つ。
また一つ。
さらに一つ。
五百の光輪。
それは歴代黒星王達の魂。
五百回の世界で戦い続けた英雄達の記録だった。
アビス・イーターが咆哮する。
『■■■■■■■■■■!!』
世界海が砕ける。
黄金の鎖が再びシオンへ襲い掛かった。
だが。
今のシオンは違う。
「見える。」
静かな一言。
観測者の瞳は。
未来だけではない。
世界法則そのものを見通していた。
黄金の鎖が迫る。
シオンは一歩踏み出した。
たった一歩。
それだけで世界海へ無数の波紋が広がる。
そして。
蒼銀の剣を静かに振るう。
ズァァァァァァァァァン――!!
黄金の鎖が一斉に砕け散った。
アインが息を呑む。
「斬った……。」
起源の鎖。
始祖の権能ですら。
今の観測者には届かない。
シオンは止まらない。
一直線にアビス・イーターへ駆ける。
無数の眼球が開く。
黒い翼が世界海を覆う。
巨大な拳が振り下ろされる。
一撃で世界一つを消し飛ばせる質量。
だが。
シオンは未来を見ていた。
「遅い。」
身体を半歩ずらす。
拳は紙一重で空を切る。
その勢いのまま。
蒼銀の剣が閃いた。
ズガァァァァァァァァァァン!!
アビス・イーターの左腕が宙を舞う。
再生する暇も与えない。
シオンはさらに加速した。
世界海を駆ける。
蒼い軌跡が一直線に伸びていく。
アビス・イーターの胸部。
黒い核。
そこだけを見据えて。
「これで終わりだ。」
静かな声だった。
怒りでもない。
憎しみでもない。
守るという意思だけが宿っていた。
その時だった。
アビス・イーターの核が大きく脈打つ。
ドクン――――!!
世界海が悲鳴を上げる。
ノアが叫ぶ。
『始祖との接続率百パーセント!』
『退避してください!』
だが。
シオンは止まらない。
止まれば。
背後の世界が消える。
守ると決めた。
それだけで十分だった。
蒼銀の剣が眩く輝く。
歴代黒星王達の光。
観測者の力。
五百回積み重ねられた希望。
その全てが刀身へ集まる。
シオンはゆっくり剣を構えた。
「《
終焉観測・零式
(
ラスト・オブザベーション
)
》」
世界が静止する。
銀色の海。
黄金の光。
黒い巨体。
その全てが一瞬だけ止まった。
そして。
蒼い一閃が走る。
ズガァァァァァァァァァァァァァァァン――――!!
世界海を貫く蒼い光。
アビス・イーターの黒い核へ一直線に突き刺さる。
静寂。
誰も動かない。
次の瞬間。
パキッ――。
小さな音が響いた。
黒い核に一本の亀裂。
さらに。
二本。
三本。
無数の亀裂が走る。
アビス・イーターの数十万の瞳がゆっくり閉じていく。
巨体が崩れ始めた。
黒い結晶は光へ変わり。
黄金の鎖は塵となって消える。
最後に残った核も。
蒼い光へ包まれた。
そして。
完全に砕け散る。
世界海を覆っていた黒い侵食は跡形もなく消え去った。
静寂。
銀色の海が穏やかさを取り戻す。
無数の世界が再び静かに輝き始めた。
アインはその場へ膝をつく。
「勝った……。」
信じられなかった。
始祖直属の眷属。
誰一人倒した記録のない存在。
それを。
最後の観測者は討ち果たしたのだ。
しかし。
シオンは剣を下ろさなかった。
蒼い瞳は遥か彼方を見つめている。
世界海の中心。
GENESISの扉。
その向こうから。
静かな拍手が聞こえた。
パチ……。
パチ……。
パチ……。
ノアでもない。
アインでもない。
始祖でもない。
誰かが笑っていた。
『見事だ』
低く穏やかな声。
だが。
その一言だけで世界海全体が震える。
シオンは静かに視線を向ける。
GENESISの扉。
その奥には。
一人の人影が立っていた。
白でも黒でもない。
黄金でも蒼でもない。
世界そのものを纏ったような青年。
その瞳だけが。
シオンを真っ直ぐ見つめていた。
青年は静かに微笑む。
『歓迎しよう』
『最後の観測者』
『ここから先が、本当の始まりだ』
その言葉と共に。
GENESISの扉はゆっくりと完全に開かれる。
世界海の旅は終わらない。
それは始まりだった。
世界の起源へ辿り着くための。
長い旅の始まりだった。




