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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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観測者の権能

蒼い光だった。


シオンの右手から放たれた光は、戦場全体を静かに包み込んでいく。


激しく荒れていた世界海が、一瞬だけ呼吸を止めた。


『――観測開始。』


その声と同時に。


世界が止まる。


否。


止まったように見えた。


アビス・イーターが振り下ろそうとしていた巨大な腕。


黒く染まり始めた世界。


砕け散ろうとしていた海面。


その全てが、ほんの一瞬だけ静止していた。


アインは目を見開く。


「これは……!」


観測者権能。


だが。


創造主の世界編集術式とも違う。


終焉の侵食とも違う。


時間停止でもない。


世界そのものを”観測”することで、存在の流れを一時的に固定しているのだ。


シオンの蒼い瞳が輝く。


無数の情報が流れ込む。


アビス・イーターの構造。


世界海の法則。


眷属を構成する概念。


全てが視える。


「そういうことか……。」


シオンは静かに呟いた。


「あいつは生き物じゃない。」


アインが振り向く。


「分かったんですか!?」


シオンは頷く。


「あれは概念を器にした兵器だ。」


「世界を喰らうんじゃない。」


「世界そのものを”終わったこと”にする存在だ。」


その言葉に。


アインの表情が凍り付く。


「そんな……。」


「始祖は、そんな兵器まで……。」


シオンはアビス・イーターを見据える。


黒い核。


あそこだ。


全身は無数の概念で構成されている。


斬っても意味はない。


砕いても再生する。


だが。


中心にある核だけは違う。


あれだけが唯一の実体だった。


「見つけた。」


静かな声。


その瞬間だった。


アビス・イーターの数十万の瞳が一斉に輝く。


ギュォォォォォォォォ!!


黒い波動が放たれる。


世界海が裂ける。


無数の小世界へ向かって、終焉の奔流が走った。


「まずい!」


アインが叫ぶ。


シオンは迷わない。


観測者の紋章が眩く輝く。


「《


星界観測


(


アストラル・オブザベーション


)


》」


蒼い光が世界海へ広がる。


次の瞬間。


黒い奔流の進行が止まった。


いや。


止めたのではない。


シオンは”結果”を書き換えた。


『まだ世界は滅びていない』


その事実だけを観測し続けたのだ。


黒い波動は小世界へ届かない。


あと数メートルという場所で、完全に静止していた。


アインは息を呑む。


「結果を……固定した……?」


創造主にもできない。


終焉にもできない。


世界を書き換えるのではない。


世界が辿る”結末”そのものを観測し続ける。


それが最後の観測者だけに許された権能だった。


しかし。


シオンの額から汗が流れる。


「長くは……もたない。」


観測し続ける限り。


膨大な演算が必要になる。


一つの世界なら問題ない。


だが今は違う。


無数の世界を同時に守っている。


観測者であるシオンにさえ、大きな負荷が掛かっていた。


その時だった。


アビス・イーターが咆哮する。


『■■■■■■■■!!』


数十万の瞳が真紅へ染まる。


黒い核が脈動した。


ドクン――。


ドクン――。


嫌な予感が走る。


アインの表情が青ざめた。


「逃げてください!」


「始祖の権能を使います!」


「何?」


「このままでは世界海ごと――」


言い終わる前だった。


黒い核が完全に開く。


そこから現れたのは。


一本の剣だった。


漆黒の剣。


その刀身には、無数の世界が滅びる光景が刻まれている。


シオンはその剣を見た瞬間、本能で理解した。


「あれは……。」


黒星王の剣でもない。


創造主の剣でもない。


世界核すら断ち切るためだけに造られた。


始祖の兵装。


世界消滅の概念そのもの。


アビス・イーターは静かに剣を握る。


そして。


シオンへ向かって、その切っ先をゆっくりと向けた。


世界海が震える。


銀色の海が黒へ染まり始める。


最後の観測者となって初めて。


シオンは本能で悟る。


この一撃だけは。


真正面から受ければ終わる。

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