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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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世界海への旅立ち

静かだった。


世界海を吹き抜ける風は存在しない。


波の音もない。


鳥の囀りも。


木々の揺れる音も。


生命の鼓動さえ聞こえない。


そこには、ただ――


果てしなく続く銀色の海だけが広がっていた。


無数の世界を映し出すその海は、まるで宇宙そのものが液体へ姿を変えたかのようだった。


一歩踏み出す。


シオンの足が銀色の海面へ触れる。


波紋が静かに広がった。


その波紋は一つの世界を越え、また一つの世界を越え、やがて世界海全体へ溶け込んでいく。


「……不思議な場所だな。」


シオンは小さく呟いた。


足元は海のはずなのに沈まない。


空を見上げても天井はなく、見下ろしても底はない。


上下という概念すら曖昧だった。


観測者となった今でも、この空間だけは理解できない。


「ここが……世界の外側。」


静かな声が銀色の海へ吸い込まれていく。


その時だった。


「ようこそ。」


背後から穏やかな声が響く。


振り返ると、純白の装束を纏った案内者が静かに立っていた。


黄金の瞳。


白銀の長髪。


感情をほとんど感じさせない表情。


それでも、その瞳の奥にはどこか人間らしい温かさが宿っていた。


「改めまして。」


案内者は静かに一礼する。


「私は世界群観測管理機構・第一案内端末《アイン》。」


「これより、あなたを世界海の旅へ案内します。」


「アイン……。」


シオンはその名を反芻する。


前話では『案内者』としてしか名乗らなかった存在。


ようやく名前を明かしたということは、それだけ自分を認めたということなのだろう。


「よろしく頼む。」


短く答えると、アインは微かに微笑んだ。


「はい、最後の観測者。」


その呼び名にも、シオンはもう驚かなかった。


黒星王ではない。


英雄でもない。


今の自分は、世界を見守る存在。


最後の観測者なのだから。


アインはゆっくり歩き始める。


銀色の海面には足跡が残らない。


その後ろをシオンも歩く。


どれほど進いただろうか。


時間という概念がない世界では、それすら分からない。


すると。


前方に一隻の船が現れた。


何もない空間から。


まるで世界そのものが形を成すように。


ゆっくりと姿を現す。


純白の船体。


黄金の装飾。


帆には巨大な蒼い紋章が描かれている。


帆布ではない。


星々そのものを織り込んだような光の帆だった。


「これは……。」


シオンは思わず息を呑む。


「船か?」


「はい。」


アインは静かに頷いた。


「《アストラル・アーク》。」


「世界海を航行できる唯一の船です。」


船体の全長は数百メートル。


だが、不思議と圧迫感はない。


むしろ神殿のような神聖さを感じさせた。


船首には巨大な蒼い結晶。


その結晶は、シオンの黒星晶と共鳴するように淡く輝いている。


ドクン――。


胸元の黒星晶が静かに鼓動する。


「反応してる……?」


シオンが呟くと、アインは静かに説明した。


「その船は歴代の観測者だけが扱えます。」


「最後の観測者であるあなたを待ち続けていました。」


シオンは船へ視線を向ける。


まるで長い眠りから目覚めた生き物のようだった。


船全体がゆっくりと光を放ち始める。


歓迎している。


そんな感覚が伝わってきた。


その時。


世界海の遥か彼方で、一筋の黒い稲妻が走る。


バチィィィィィッ――!!


銀色だった海の一部が、一瞬だけ漆黒へ染まる。


シオンとアインの表情が同時に変わった。


「あれは……。」


アインが初めて動揺を見せる。


「始祖の影響……。」


黒い稲妻は一瞬で消えた。


しかし、その余韻だけで周囲の世界が微かに揺れている。


世界海が不安定になっている。


それは紛れもない事実だった。


アインは静かに船へ乗り込む。


振り返り、シオンへ手を差し伸べる。


「急ぎましょう。」


「始祖が完全に目覚める前に。」


「あなたに見せなければならないものがあります。」


シオンは世界海をもう一度見渡した。


遥か遠くには、守り抜いた第五百世界。


そして目の前には、創造主すら知らなかった未知の領域。


ここから始まる旅は、世界を救うための戦いではない。


世界そのものを知るための旅だ。


シオンは静かに船へ足を踏み入れた。


その瞬間――


ゴォォォォォォォォォン……


《アストラル・アーク》が蒼い光を放つ。


世界海に大きな波紋が広がる。


最後の観測者を乗せた船は、ゆっくりと銀色の海を進み始めた。


その旅路の先に待つ真実を、まだ誰も知らない。

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