彼方の扉
GENESIS――。
その文字を見た瞬間だった。
シオンの黒星晶が激しく脈動する。
ドクン――――!!
蒼い光が観測者の身体を包む。
世界海が震える。
無数の世界が共鳴する。
まるで。
その名前そのものが禁忌であるかのように。
「……GENESIS」
シオンは小さく呟く。
聞いたことはない。
だが。
どこか懐かしい。
創造主の記憶にもない。
終焉の過去にも存在しない。
それなのに。
魂だけが知っている気がした。
その時だった。
ノアの光が大きく揺らぐ。
『警告』
『第一封印層崩壊』
『始祖覚醒率五十パーセント到達』
世界海に巨大な亀裂が走る。
バキィィィィィィィン!!
銀色の海面が砕け散る。
無数の世界が激しく揺れた。
案内者が叫ぶ。
「下がってください!」
だが。
遅かった。
始祖の黄金の瞳が完全にシオンを捉える。
静寂。
音が消える。
時間が止まる。
世界が凍り付く。
そして。
声が響いた。
『観測者』
低い声だった。
男でもない。
女でもない。
生命でもない。
概念そのものの声。
『久しいな』
シオンの瞳が揺れる。
久しい。
その言葉がおかしい。
自分は始祖と会ったことがない。
記録にも存在しない。
それなのに。
始祖は自分を知っている。
『また会えた』
静かな声。
その言葉に。
ノアの光が激しく脈動した。
『発言記録修正』
『認識エラー』
『第五百世界観測者と始祖の接触履歴は存在しない』
世界海が揺れる。
だが。
始祖は答えない。
黄金の瞳だけがシオンを見つめていた。
その時だった。
シオンの脳裏へ映像が流れ込む。
知らない景色。
知らない空。
知らない世界。
そして。
そこに立っている黒髪の少年。
蒼い瞳。
黒い外套。
自分だった。
いや。
違う。
似ているだけではない。
完全に同じだった。
その少年は巨大な扉の前に立っている。
GENESIS。
その文字が刻まれた扉の前に。
そして。
少年は振り返った。
その顔には悲しみがあった。
絶望があった。
それでも。
どこか優しい笑顔だった。
『次は頼んだ』
映像が途切れる。
シオンは思わず息を呑んだ。
何だった。
今のは。
記憶ではない。
夢でもない。
だが。
確かに見た。
ノアが静かに告げる。
『観測者シオン・アルヴィス』
『あなたは既に始まっている』
意味が分からない。
だが。
ノアの声には今までにない重みがあった。
『第五百世界は終点ではない』
『通過点です』
世界海の中心。
GENESISの扉がゆっくりと開き始める。
ゴォォォォォォォォォォォ……
内部から溢れる黄金の光。
その奥には。
さらに巨大な世界が存在していた。
創造主の世界よりも古い世界。
終焉誕生以前の世界。
全ての起源。
全ての始まり。
そして。
全ての終わり。
始祖の声が再び響く。
『来い』
黄金の瞳が輝く。
『最後の観測者』
『お前に見せよう』
世界海が震える。
無数の世界が共鳴する。
GENESISの扉が完全に開く。
その先に待つものは希望か。
それとも絶望か。
まだ誰も知らない。
だが一つだけ確かなことがあった。
五百回続いた戦いは終わった。
しかし。
物語は終わっていない。
世界の起源。
創造主のさらに先。
始祖。
そしてGENESIS。
本当の物語が今。
静かに幕を開けようとしていた。
シオンは蒼い瞳を閉じる。
そして。
守り抜いた世界を最後に振り返った。
セレスティア。
ルナリア。
仲間達。
未来。
全てを胸に刻む。
もう迷わない。
最後の観測者は一歩前へ進む。
世界の外側へ。
全ての始まりへ。
その先に待つ真実を知るために。




