無限世界群
世界海は静かだった。
銀色の波が果てしなく広がっている。
風はない。
空もない。
太陽もない。
だが。
無数の世界がそこに存在していた。
光球。
一つ一つが独立した世界。
生命が生きる世界。
既に滅びた世界。
誕生したばかりの世界。
その全てが銀色の海に浮かんでいる。
シオンは言葉を失っていた。
観測者となってから。
創造主の記憶も見た。
終焉の過去も知った。
世界核の真実も理解した。
だが。
今見ている光景は。
その全てを超えていた。
「……これ全部が世界なのか」
小さく呟く。
案内者は静かに頷いた。
「はい」
黄金の瞳が光球を見渡す。
「観測可能領域に存在する世界群です」
シオンは眉をひそめる。
「観測可能領域?」
案内者は微笑んだ。
「世界海には果てがありません」
静かな声。
「私達ですら全容を把握できていません」
その言葉に。
シオンは少しだけ笑った。
創造主ですら神に見えた。
終焉ですら概念だった。
だが。
そのさらに上の存在ですら。
全てを知らない。
どこまで行っても未知が存在する。
その事実が妙に面白かった。
その時だった。
一つの光球が強く輝く。
シオンは視線を向ける。
そこには戦争があった。
巨大な空中都市。
無数の飛空艇。
蒼い結晶を巡って争う人々。
セレスティアによく似ている。
だが。
決定的に違う。
空には黒い太陽が浮かんでいた。
シオンが目を細める。
「似てるな」
案内者が頷く。
「類似世界です」
静かな説明。
「第五百世界と近い発展経路を辿った世界」
シオンは黙る。
すると。
別の光球が輝く。
そこには機械文明が広がっていた。
人々は魔法を使わない。
代わりに鋼鉄の巨人が空を飛んでいる。
さらに別の世界。
そこには海しかなかった。
大陸が存在しない。
全てが海の世界。
また別の世界。
生命そのものが存在しない。
静寂だけの世界。
無数の世界。
無数の歴史。
無数の未来。
シオンは理解し始めていた。
セレスティアだけが特別ではない。
世界とは。
想像を超えるほど巨大な存在なのだと。
その時だった。
世界海の遥か彼方。
中心部。
そこに浮かぶ巨大な光が脈動した。
ドクン――――
銀色の海全体が震える。
案内者の表情が変わる。
初めてだった。
感情が動いたのは。
「起きた……」
小さな呟き。
シオンは振り返る。
「何がだ」
案内者は答えない。
ただ。
巨大な光を見つめている。
そして。
ゆっくり膝をついた。
シオンの表情が変わる。
案内者ほどの存在が。
頭を垂れている。
その瞬間。
世界海全体へ声が響いた。
『反応確認』
低い声。
男でもない。
女でもない。
生命ですらない。
それでいて。
どこか懐かしい声。
『第五百世界観測者』
静寂。
無数の世界が共鳴する。
銀色の海が震える。
案内者が頭を下げたまま呟く。
「ノア様……」
シオンの瞳が細くなる。
観測者管理機構。
ノア。
その名の本体。
世界群のさらに上位に存在する者。
巨大な光が脈動する。
ドクン――――
その鼓動だけで。
世界海全体が震えていた。
そして。
ノアは静かに告げる。
『シオン・アルヴィス』
『ようやく会えた』
その言葉に。
シオンの背筋を冷たいものが走った。
なぜなら。
その声には。
初めて感情が宿っていたからだ。
まるで。
ずっと前から自分を知っていたかのような。
そんな声だった。




