観測者の朝
静寂だった。
世界核の最深部。
観測の座。
そこには一人の少年が座っていた。
シオン・アルヴィス。
かつて黒星王と呼ばれた英雄。
そして今は。
世界を見守る最後の観測者。
蒼い瞳が静かに開く。
眠っていたわけではない。
観測者は眠らない。
時間という概念から外れているからだ。
それでも。
どこか夢から覚めたような感覚があった。
目の前には無数の光。
星々。
未来。
歴史。
可能性。
世界の全てが流れている。
まるで巨大な川だった。
シオンは静かに手を伸ばす。
光に触れる。
その瞬間。
王都セレスティアの景色が映し出された。
復興が始まっている。
崩壊した街並みは修復され。
人々は笑顔を取り戻していた。
子供達が走り回る。
商人達が声を張り上げる。
兵士達が訓練している。
平和だった。
本当に。
久しぶりに。
平和だった。
シオンは小さく笑う。
守れた。
その事実だけで十分だった。
だが。
次の瞬間。
胸の奥に小さな痛みが走る。
ドクン――
黒星晶が反応する。
違和感。
観測者となってから初めて感じる異常。
シオンは顔を上げた。
宇宙の果て。
世界の外側。
そこに。
昨日見た扉が存在していた。
蒼白い光。
世界核の記録に存在しない扉。
創造主ですら知らない領域。
終焉すら観測していない場所。
シオンは目を細める。
観測者権限を展開する。
無数の情報が流れ込む。
だが。
何も分からない。
観測できない。
解析できない。
未来すら見えない。
その事実に。
初めて緊張が走った。
観測者でも見えない存在。
そんなものが。
本当に存在するのか。
その時だった。
扉が揺れる。
ゴォォォォォォォ……
静かな振動。
宇宙全体が共鳴する。
そして。
声が響いた。
『接続確認』
感情のない声。
機械にも似ている。
だが。
生物の気配もある。
シオンは立ち上がる。
観測の座から。
ゆっくりと。
蒼い瞳が光る。
『第五百世界観測者』
声が続く。
『応答を要求する』
静寂。
誰もいないはずの宇宙。
だが。
確かに誰かがいる。
シオンは小さく息を吐いた。
そして。
静かに答える。
「お前は誰だ」
扉が輝く。
光が漏れる。
そして。
少しだけ笑うような気配がした。
『質問を確認』
『回答する』
静寂。
宇宙が止まる。
未来が静止する。
歴史が息を止める。
その声は告げた。
『私は観測者管理機構』
『コードネーム・ノア』
シオンの瞳が細くなる。
初めて聞く名前。
だが。
直感が告げていた。
これが新たな物語の始まりだと。
世界は救われた。
だが、シオンの旅は終わっていなかった。




