終焉の涙
光だった。
世界の外側へ続く扉。
純白の門。
その向こうから溢れ出す光が世界核全体を包み込んでいる。
シオンの身体はさらに粒子化が進んでいた。
胸部。
肩。
腕。
既に半分以上が光へ変わっている。
人として存在できる時間は残り僅かだった。
ルナリアは唇を噛み締める。
何度も。
何度も。
シオンの名前を呼びたかった。
だが呼べなかった。
呼べば本当に終わってしまいそうだったから。
その時だった。
終焉が前へ出る。
赤い瞳。
黒い外殻。
世界最大の災厄。
かつて全ての世界を滅ぼした存在。
ルナリア達は思わず息を呑む。
終焉は黙ったままシオンの前へ立った。
静寂。
誰も口を開かない。
長い沈黙。
そして。
終焉が呟いた。
『お前は馬鹿だ』
低い声だった。
だが。
そこに敵意はない。
怒りもない。
ただ。
どこか悲しそうだった。
シオンは苦笑する。
「よく言われる」
終焉は鼻で笑った。
『知っている』
静かな会話。
まるで長年の友人同士のような会話だった。
ルナリアは思う。
誰が想像できただろう。
世界最大の災厄と。
世界を救った英雄が。
こんな話をする未来を。
終焉はシオンを見つめる。
赤い瞳が揺れる。
『私は憎んでいた』
静かな声。
世界核が脈動する。
ドクン――
ドクン――
『創造主を』
『世界を』
『生命を』
『全てを』
その声には重みがあった。
何兆年も積み重なった憎しみ。
孤独。
絶望。
その全てが込められていた。
『だが』
終焉は目を閉じる。
『お前は違った』
シオンは何も言わない。
終焉は続ける。
『お前は私を倒そうとしなかった』
『消そうとしなかった』
『否定しなかった』
赤い瞳がゆっくり開く。
『救おうとした』
静寂。
世界が静まる。
終焉の声が少しだけ震えた。
『誰もそんなことをしなかった』
『創造主ですら』
創造主が目を伏せる。
その言葉を否定できない。
事実だからだ。
終焉を封印した。
隔離した。
排除しようとした。
だが。
救おうとした者はいなかった。
シオンだけだった。
その時。
終焉の瞳から一粒の雫が落ちた。
ルナリアが目を見開く。
クロノも息を呑む。
終焉が。
泣いていた。
世界最大の災厄が。
孤独の化身が。
静かに涙を流していた。
『ありがとう』
小さな声。
本当に小さな声。
だが。
その言葉は世界中のどんな言葉より重かった。
シオンは少し驚いた顔をした。
そして。
優しく笑った。
「どういたしまして」
終焉は笑う。
ぎこちなく。
不器用に。
初めて笑う子供のように。
『本当に』
赤い瞳が細められる。
『変な奴だ』
シオンは肩を竦める。
「お互い様だろ」
終焉は少しだけ吹き出した。
創造主も笑う。
クロノも笑う。
ルナリアも涙を流しながら笑った。
不思議だった。
別れのはずなのに。
悲しいはずなのに。
どこか温かかった。
その時だった。
世界核が激しく脈動する。
ゴォォォォォォォォォォォン――――!!
宇宙が震える。
光柱がさらに巨大になる。
創造主の表情が変わる。
アーカイヴも顔を上げる。
観測者継承まで。
残された時間はもうほとんどない。
終焉は一歩下がる。
そして。
最後にシオンを見る。
『行け』
赤い瞳が静かに輝く。
『最後の黒星王』
『いや』
終焉は首を横に振った。
そして。
微かに笑った。
『最後の観測者』
その呼び名に。
シオンは静かに頷く。
世界を救った英雄。
五百回目の黒星王。
そして。
新たな観測者。
その運命を受け入れる時が。
ついに近付いていた。




