創造主の願い
静寂だった。
世界核の中心。
純白の扉。
世界の外側へ続く門。
その向こうから現れた人物を見て。
誰も言葉を失っていた。
黒い外套。
蒼い瞳。
静かな微笑み。
ゼロ。
最初の黒星王。
全ての始まり。
既に消滅したはずの存在。
五百回の希望へ姿を変えたはずの英雄だった。
ルナリアが呆然と呟く。
「どうして……」
クロノも目を見開いている。
創造主だけが静かに微笑んだ。
まるで。
最初から分かっていたかのように。
ゼロはゆっくり歩いてくる。
その身体は半透明だった。
完全な存在ではない。
記録。
記憶。
残響。
そんな曖昧な存在だった。
それでも。
確かにそこにいた。
シオンは静かに笑う。
「久しぶりだな」
ゼロも笑った。
「ああ」
懐かしそうな声。
長い旅を終えた者同士の声だった。
しばらく沈黙が続く。
言葉はいらなかった。
互いに理解している。
同じ黒星王だから。
同じ運命を背負った者だから。
その時。
ゼロが世界核を見る。
巨大な純白の結晶。
新たな観測者を求める世界の心臓。
そして。
小さく息を吐いた。
「やっぱりそうなるか」
苦笑だった。
シオンは肩を竦める。
「らしいな」
二人は似ていた。
本当によく似ていた。
クロノは呆れたように言う。
「何でそんな落ち着いてるんだよ」
ゼロが振り返る。
そして。
どこか遠くを見るような目で答えた。
「慣れてるからだ」
静かな声。
「黒星王はいつだって最後に選ぶ側だ」
その言葉に。
創造主が目を伏せる。
終焉も黙る。
誰よりも重い言葉だった。
ゼロは最初の黒星王。
五百回の始まり。
全ての絶望を最初に背負った男だから。
ゼロはゆっくり創造主へ視線を向ける。
銀色の瞳。
世界を創った存在。
かつて全ての始まりだった男。
長い沈黙。
そして。
ゼロは静かに問いかけた。
「後悔しているか」
世界が静まる。
創造主は答えない。
すぐには。
答えられなかった。
何万年もの歴史。
何万年もの罪。
何万年もの失敗。
その全てが胸にあった。
やがて。
創造主は微笑んだ。
悲しそうに。
優しく。
「している」
即答だった。
ルナリアが顔を上げる。
クロノも創造主を見る。
銀色の瞳が揺れていた。
「何度も」
「何万回も」
「毎日」
静かな声。
「後悔していた」
世界核が脈動する。
ドクン――
ドクン――
まるでその告白を聞いているように。
創造主は続ける。
「世界を創ったことも」
「終焉を生み出したことも」
「黒星王達を戦わせたことも」
銀色の瞳が伏せられる。
「全部だ」
静寂。
その声には嘘がなかった。
本心だった。
創造主は誰より苦しんでいた。
世界を愛していたから。
守りたかったから。
だからこそ失敗した。
だからこそ後悔した。
ゼロは黙って聞いていた。
そして。
小さく笑う。
「ならよかった」
創造主が顔を上げる。
ゼロは微笑んでいた。
本当に穏やかに。
「後悔しない創造主だったら」
蒼い瞳が細められる。
「俺は許さなかった」
静寂。
創造主の瞳が揺れる。
何万年ぶりだったのだろう。
救われた気がした。
最初の黒星王に。
許された気がした。
その時だった。
世界核が激しく脈動する。
ゴォォォォォォォォォォン――――!!
純白の光柱が宇宙を貫く。
創造主の表情が変わる。
終焉も顔を上げる。
アーカイヴが静かに呟いた。
「限界だ」
観測者継承。
その時が来たのだ。
シオンの身体から光が溢れ出す。
粒子化が加速する。
残された時間は僅か。
ゼロは静かにシオンを見る。
そして。
最初の黒星王は最後の黒星王へ向かって言った。
「行け」
蒼い瞳が輝く。
「今度こそ」
優しい声。
託す声。
「世界の未来を見届けろ」
その言葉と共に。
世界の外側へ続く扉が完全に開く。
誰も知らない領域。
観測者だけが辿り着く場所。
その先に。
シオンを待つ本当の運命があった。




