最後の選択
光だった。
世界核から溢れ出した無数の光が宇宙を埋め尽くしていた。
銀河が揺れる。
未来が揺れる。
歴史が揺れる。
世界そのものが変化を始めていた。
シオンの身体は半分以上が光へ変わっている。
もう人間ではなかった。
世界核と融合を始めた存在。
新たな観測者。
その境界に立つ者だった。
ルナリアは必死に手を伸ばす。
消えてしまいそうな背中へ。
届かなくなりそうな存在へ。
だが。
指先は触れられない。
シオンの身体は既に物質ではなくなっていた。
光が指の間をすり抜ける。
その事実が。
何より残酷だった。
「シオン……」
震える声。
シオンは振り返る。
そして少しだけ笑った。
悲しそうに。
優しく。
「泣くなよ」
その言葉に。
ルナリアは首を横に振る。
「無理だよ……」
涙が止まらない。
「そんなの無理に決まってる……」
静寂。
世界核の鼓動だけが響く。
ドクン――
ドクン――
ドクン――
まるで残された時間を刻む時計のようだった。
その時だった。
創造主がゆっくり前へ出る。
銀色の瞳が世界核を見つめる。
長い沈黙。
そして。
静かに告げた。
「まだ選択肢はある」
全員が顔を上げた。
終焉も。
アーカイヴも。
クロノも。
ルナリアも。
創造主は続ける。
「観測者継承には条件がある」
世界核が反応する。
巨大な結晶の中心に光が集まる。
「観測者になる者は」
銀色の瞳がシオンを見る。
「自らその運命を受け入れなければならない」
静寂。
クロノが目を見開く。
「つまり……」
創造主は頷く。
「拒否できる」
世界が静まり返った。
ルナリアの瞳に希望が宿る。
終焉も表情を変える。
だが。
創造主の顔は曇ったままだった。
「しかし」
重い声。
「その場合」
世界核に無数の亀裂が走る。
バキッ――
バキバキバキッ――
ルナリアの顔色が変わる。
「世界核は崩壊する」
静寂。
誰も言葉を発せない。
創造主は続ける。
「世界は救われた」
「だが維持できない」
「数年後」
「遅くとも数十年後」
銀色の瞳が伏せられる。
「再び終焉が始まる」
その言葉は重かった。
あまりにも。
ルナリアは俯く。
理解してしまった。
選択肢ではない。
そんなもの。
最初から。
シオンが選ぶはずがない。
シオンは黙っていた。
何も言わない。
だが。
その瞳を見れば分かる。
既に答えは出ている。
クロノが拳を握る。
「ふざけんな……」
珍しく怒っていた。
「何でこいつばっかりなんだ」
声が震える。
「世界救って」
「何回も死にかけて」
「全部背負って」
「最後までかよ」
静寂。
誰も反論できない。
その通りだった。
シオンばかりが失っている。
シオンばかりが背負っている。
だからこそ。
許せなかった。
クロノ自身が。
その運命を。
だが。
シオンは笑った。
本当にいつものように。
「別にいいさ」
クロノが顔を上げる。
蒼い瞳が真っ直ぐ向けられる。
「俺が選んだんだから」
静寂。
「誰かに押し付けられたわけじゃない」
「誰かに命令されたわけでもない」
黒星晶が輝く。
五百回の希望が共鳴する。
「俺が守りたいから守る」
その言葉に。
創造主が目を閉じる。
終焉が顔を背ける。
ルナリアは涙を流す。
それが。
シオン・アルヴィスという人間だった。
その時だった。
世界核の中心に巨大な光輪が現れる。
ゴォォォォォォォォォォン――――!!
宇宙が揺れる。
銀河が回転する。
未来が収束する。
創造主の表情が変わる。
「来るぞ」
終焉が顔を上げる。
アーカイヴも剣を構える。
世界核中心部。
そこに一つの扉が現れた。
純白の扉。
世界の外側へ続く門。
観測者だけが辿り着ける場所。
誰も知らない領域。
誰も踏み込めない世界。
その扉が。
ゆっくりと開き始める。
そして。
扉の向こうから。
一人の人影が現れた。
黒い外套。
蒼い瞳。
懐かしい気配。
その姿を見た瞬間。
シオンの瞳が大きく見開かれる。
「……ゼロ」
最初の黒星王。
全ての始まり。
既に消えたはずの英雄が。
世界の外側から再び姿を現した。




