世界の諦め
静寂だった。
誰も動けなかった。
世界核の中心。
巨大な黒い眼。
エンド・リライトの意思。
それは終焉ではなかった。
創造主でもない。
管理者でもない。
生命ですらない。
五百回積み重なった絶望。
世界そのものが抱いた諦め。
それが形となった存在だった。
『最終処理開始』
感情のない声。
冷たい声。
その一言だけで宇宙が震える。
世界樹アルファが悲鳴を上げる。
無数の未来が砕け散る。
ルナリアは思わず胸を押さえた。
苦しい。
息ができない。
まるで心そのものを握り潰されているようだった。
クロノも膝をつく。
時間権限が機能しない。
未来視も使えない。
観測そのものが拒絶されている。
アーカイヴが静かに告げる。
「世界法則の外側だ」
銀色の瞳が揺れる。
「観測できない」
「管理できない」
「演算できない」
創造主も険しい表情を浮かべる。
それは初めて見る顔だった。
世界を創った存在が。
本気で警戒していた。
『当然だ』
黒い眼が開く。
無数の黒い光が宇宙へ広がる。
『私は結果である』
静寂。
『五百回の観測結果』
『五百回の絶望結果』
『五百回の失敗結果』
世界が軋む。
『生命は失敗する』
『希望は失敗する』
『未来は失敗する』
『ゆえに』
黒い眼が輝く。
『終了する』
その瞬間だった。
世界核の一部が消えた。
爆発ではない。
破壊でもない。
存在そのものが消去された。
そこにあった空間。
時間。
未来。
全てが消えた。
ルナリアの顔が青ざめる。
「何……今の……」
創造主が答える。
重い声で。
「削除だ」
静寂。
「存在そのものを消している」
クロノが絶句する。
終焉ですら目を細める。
そんな力。
誰も持っていない。
世界終了術式そのものだからこそ可能な権能。
その時だった。
吹き飛ばされていたネメシスが立ち上がる。
傷だらけだった。
黒い外套は破れ。
身体の一部は粒子化している。
だが。
まだ立っていた。
蒼い瞳が黒い眼を睨む。
「……そうか」
小さな声。
誰にも聞こえないほど小さな声。
だが。
シオンには聞こえた。
ネメシスは笑っていた。
寂しそうに。
どこか安心したように。
「ようやく分かった」
世界が静まる。
ネメシスはシオンを見る。
「俺は間違ってた」
ルナリアが顔を上げる。
クロノも目を見開く。
ネメシスはゆっくり歩く。
シオンの方へ。
「ずっと思っていた」
蒼い瞳が揺れる。
「絶望したから世界は終わるんだと」
苦笑する。
「違った」
静かな声。
「諦めたから終わるんだ」
世界が震える。
創造主が微笑む。
終焉も静かに目を閉じる。
ネメシスは理解したのだ。
ようやく。
五百一回目の失敗の理由を。
「俺は希望を捨てた」
シオンの前で立ち止まる。
「だから負けた」
静寂。
「お前は捨てるな」
その言葉に。
シオンの胸が熱くなる。
ネメシスが右手を差し出した。
黒い光。
絶望の力。
五百一回目の未来。
その全てが手の中にある。
「受け取れ」
静かな声。
「俺の未来を」
その瞬間だった。
ネメシスの身体が光り始める。
ルナリアが息を呑む。
クロノが叫ぶ。
「待て!」
だが。
ネメシスは首を横に振った。
穏やかな顔だった。
もう絶望していない。
もう孤独ではない。
「大丈夫だ」
蒼い瞳が細められる。
「今回は違う」
その言葉と共に。
ネメシスは光になる。
五百一回目の未来。
失敗した世界線。
絶望した黒星王。
その全てが。
シオンの黒星晶へ吸い込まれていく。
ドクン――――ッ!!
黒星晶が爆発的な光を放つ。
世界が震える。
未来が震える。
世界核が共鳴する。
創造主が目を見開く。
終焉も驚いていた。
アーカイヴですら息を呑む。
なぜなら。
五百回の希望に。
五百一回目の絶望が加わったからだ。
光と闇。
希望と絶望。
未来と失敗。
全てが一つになる。
そして。
黒い眼が初めて反応した。
『異常確認』
感情のない声。
だが。
僅かな揺らぎがあった。
『理解不能』
シオンが顔を上げる。
蒼い瞳が輝いていた。
今までとは違う。
希望だけでもない。
絶望だけでもない。
その両方を知った瞳だった。
そして彼は。
巨大な黒い眼を真っ直ぐ見据える。
REBIRTH最終決戦。
その幕が。
ついに上がろうとしていた。




