希望の外側
世界核が脈動していた。
ドクン――
ドクン――
ドクン――
巨大な鼓動。
まるで世界そのものが目覚めようとしているかのようだった。
シオンの言葉が空間に残っている。
「五百一回目は違う答えを探せばいい」
静寂。
誰も動かなかった。
ネメシスだけが立ち尽くしている。
蒼い瞳が揺れていた。
激しく。
今まで見せたことのないほどに。
「違う答え……?」
掠れた声。
何千年ぶりなのか。
自分でも分からないほど久しぶりに。
ネメシスは迷っていた。
彼は未来を見続けた。
何万。
何十万。
数え切れない可能性を。
だが。
全て同じだった。
誰かが消える。
誰かが犠牲になる。
誰かが泣く。
それが世界の法則だった。
だから諦めた。
だから絶望した。
だから世界そのものになった。
それがネメシスだった。
しかし。
目の前の少年は違った。
「本当に見たのか?」
シオンが静かに言う。
ネメシスが顔を上げる。
蒼い瞳が交差する。
「何をだ」
シオンは世界核を見る。
巨大な純白の結晶。
無数の未来。
無数の可能性。
無数の歴史。
そして。
そのさらに先。
誰も見ようとしなかった場所。
「未来じゃない」
静かな声。
「人を」
世界が静まり返る。
ルナリアが息を呑む。
クロノも目を見開く。
創造主が微笑む。
終焉は静かに目を閉じた。
ネメシスは固まる。
「人を……?」
シオンは頷く。
「お前は未来を見た」
「可能性も見た」
「世界も見た」
一歩前へ出る。
「でも」
蒼い瞳が輝く。
「仲間を信じなかった」
その瞬間だった。
ネメシスの表情が変わる。
世界核が大きく脈打つ。
ドクン――――!!
映像が溢れ出した。
ネメシスの記憶。
未来世界。
再生された世界。
救われた人類。
だが。
その中心には一人しかいない。
ネメシスだけだった。
誰にも頼らなかった。
誰も信じなかった。
全てを一人で背負った。
だから。
最後に孤独になった。
創造主と同じように。
終焉と同じように。
シオンは静かに言う。
「それがお前の失敗だ」
ネメシスの瞳が揺れる。
「違う……」
小さな声。
だが。
否定に力がない。
「違わない」
シオンは続ける。
「創造主も一人だった」
「終焉も一人だった」
「お前も一人だった」
蒼い瞳が真っ直ぐ向けられる。
「だから失敗した」
静寂。
世界核が震える。
ネメシスは何も言えない。
図星だった。
誰よりも理解していた。
自分自身が。
一番。
その事実を。
その時だった。
ルナリアが前へ出る。
銀色の髪が揺れる。
月光が優しく輝く。
「シオンは違う」
ネメシスが振り返る。
ルナリアの瞳には涙があった。
だが。
強い光もあった。
「一人じゃないから」
クロノも前へ出る。
「面倒ばっか起こすけどな」
苦笑する。
「それでも放っとけない」
創造主が笑う。
終焉も小さく笑う。
アーカイヴですら静かに頷く。
ネメシスは呆然としていた。
見たことがない。
そんな未来。
そんな可能性。
そんな答え。
その瞬間。
世界核の最深部から眩い光が放たれる。
ゴォォォォォォォォォォォン!!
宇宙が震える。
銀河が揺れる。
未来が軋む。
創造主の表情が変わった。
「来るぞ」
終焉が顔を上げる。
赤い瞳が細くなる。
アーカイヴも剣を抜く。
シオンは振り返る。
世界核の中心。
そこに巨大な亀裂が走っていた。
バキィィィィィィィッ!!
純白の結晶が砕ける。
黒い光が溢れ出す。
世界終了術式。
エンド・リライト。
その本体が。
ついに目覚めようとしていた。
そして。
亀裂の奥から。
ゆっくりと。
一つの巨大な眼が開く。
終焉ですら見たことのない存在。
創造主すら恐れた存在。
世界終了術式そのものの意思。
真なる敵。
それが今。
世界核の奥で目を覚ました。




