五百一回目の黒星王
静寂だった。
誰も動けなかった。
世界核の中心。
巨大な純白の結晶の奥。
そこに立っていたのは。
シオンだった。
黒髪。
蒼い瞳。
黒い外套。
黒き大剣。
全て同じ。
鏡写し。
まるで未来のシオンだった。
だが。
決定的に違うものがある。
その瞳だった。
そこには希望がなかった。
光がなかった。
ただ。
果てしない絶望だけが存在していた。
「五百一回目の黒星王……」
ルナリアが呟く。
震える声。
理解が追い付かない。
五百回目がシオンのはずだった。
創造主が待ち続けた最後の希望。
なのに。
なぜ五百一回目が存在するのか。
ネメシスは小さく笑った。
悲しそうに。
どこか懐かしそうに。
「当然の疑問だ」
蒼い瞳がシオンを見る。
「だが答えは簡単だ」
静かな声。
「俺はお前だ」
世界が静まり返る。
クロノが固まる。
ルナリアの顔色が変わる。
創造主も目を見開いた。
終焉でさえ言葉を失う。
ネメシスは続ける。
「正確には違う」
「お前が選ばなかった未来」
「お前が辿らなかった可能性」
「お前が絶望した世界線」
黒い粒子が周囲へ舞う。
世界核が共鳴する。
ドクン――
ドクン――
巨大な鼓動。
まるでネメシスの存在を肯定するように。
「五百回目の希望」
ネメシスが笑う。
「その先にある失敗」
「それが俺だ」
シオンは黙っていた。
ただ見つめる。
目を逸らさずに。
ネメシスもまた見つめ返す。
二人の蒼い瞳が交差する。
その瞬間だった。
世界核が光を放つ。
そして。
シオンの脳内へ記憶が流れ込んだ。
知らない景色。
知らない未来。
世界樹アルファ。
最終決戦。
終焉との和解。
世界再生。
全て成功した未来。
だが。
その後。
世界は崩壊した。
シオンが息を呑む。
なぜなら。
その未来で。
自分は一人だった。
ルナリアはいない。
クロノもいない。
仲間達もいない。
創造主も終焉もいない。
誰もいない。
完全なる孤独。
その玉座に座っていた。
世界そのものとなったシオン。
それがネメシスだった。
「分かったか」
ネメシスが静かに言う。
「世界を救った後の未来だ」
ルナリアが震える。
「そんな……」
ネメシスは苦笑する。
「創造主は失敗した」
「終焉も失敗した」
「五百回の黒星王も失敗した」
蒼い瞳が細くなる。
「そして俺も失敗した」
静寂。
世界核が脈打つ。
ドクン――
ドクン――
ドクン――
「世界を救うことはできる」
ネメシスが言う。
「だが」
声が重くなる。
「誰も犠牲にしない世界など存在しない」
その言葉に。
創造主が目を伏せる。
終焉も黙る。
誰も反論できなかった。
現実だからだ。
五百回の歴史が証明している。
何かを救えば。
何かが失われる。
それが世界の法則だった。
ネメシスはシオンを見る。
真っ直ぐに。
どこか期待するように。
「だから聞こう」
空気が張り詰める。
「お前は何を捨てる」
静寂。
ルナリアの表情が変わる。
クロノが拳を握る。
創造主が黙る。
終焉が目を細める。
ネメシスは続ける。
「世界か」
「終焉か」
「創造主か」
「仲間か」
「自分自身か」
蒼い瞳が鋭く光る。
「必ず一つを選べ」
その瞬間。
世界核全体が激しく脈動した。
ネメシスの背後に巨大な黒い法陣が展開される。
無数の世界線。
無数の未来。
無数の失敗。
その全てが渦巻いている。
「これが最後の試練だ」
静かな声。
「五百回目の黒星王」
黒い外套が揺れる。
蒼い瞳が輝く。
「お前は俺を超えられるか」
世界終了まで残り四日。
世界再生計画最大の試練。
五百一回目の黒星王。
ネメシスとの対峙が始まる。




