五百人の意志
オリジン・アーカイヴ最深部。
無数の黒星王達が立っていた。
第一世界。
第二世界。
第三世界。
そして。
第四百九十九世界まで。
五百回の歴史。
五百回の希望。
五百回の絶望。
全ての黒星王達がシオンを見つめている。
その光景は圧巻だった。
誰もが英雄だった。
誰もが世界を救おうとした。
誰もが最後まで戦った。
そして。
誰も勝てなかった。
ルナリアは息を呑む。
クロノも言葉を失う。
一人一人から放たれる存在感があまりにも大きかった。
まるで歴史そのものが立ち上がっているようだった。
第四百九十九世界の黒星王が前へ出る。
静かな足音。
その瞳は以前より穏やかだった。
「始めよう」
低い声。
シオンは頷く。
黒星王は剣を抜かなかった。
敵意もない。
殺気もない。
だが。
その瞳だけは真剣だった。
「まず聞く」
静寂。
「お前は世界を救いたいのか」
シオンは即答した。
「ああ」
迷いはない。
黒星王は続ける。
「なぜだ」
「みんなが生きているからだ」
短い答え。
だが。
そこに嘘はなかった。
黒星王は黙る。
そして再び問う。
「なら」
蒼い瞳が鋭くなる。
「世界を救うために一人を犠牲にしろと言われたら?」
空気が変わった。
ルナリアの顔色が変わる。
クロノも拳を握る。
シオンは少しだけ考える。
そして。
静かに答えた。
「断る」
その瞬間。
空間が震えた。
無数の黒星王達が反応する。
第四百九十九世界の黒星王も目を細めた。
「なぜだ」
シオンは答える。
「その答えで救われる世界なら」
蒼い瞳が真っ直ぐ向けられる。
「きっとまた誰かが泣く」
静寂。
「俺はもう見たくない」
劇場版。
消えた自分。
泣いていた仲間達。
忘れられた世界。
全てが脳裏を過る。
「だから誰も犠牲にしない」
その言葉に。
ルナリアの瞳が揺れた。
第四百九十九世界の黒星王は何も言わない。
ただ。
少しだけ笑った。
そして後ろへ下がる。
代わりに。
別の黒星王が前へ出た。
傷だらけの大男だった。
第三百世界の黒星王。
伝説の戦士。
彼は腕を組む。
「なら聞こう」
低い声。
「終焉を救うと言ったな」
シオンは頷く。
男は睨みつける。
「終焉は何億人も殺した」
「何百の世界を滅ぼした」
「それでも救うのか」
重い問いだった。
誰も答えられなかった問い。
だが。
シオンは目を逸らさない。
「救う」
即答だった。
男が眉をひそめる。
「なぜだ」
シオンは終焉を見る。
赤い瞳。
孤独な存在。
捨てられた半身。
そして静かに言った。
「誰も救われないからだ」
沈黙。
「終焉を倒しても」
「憎しみだけが残る」
「苦しみだけが残る」
「それじゃ何も終わらない」
蒼い瞳が輝く。
「だから終わらせる」
「全部」
世界が静まり返る。
その言葉に。
終焉自身が目を見開いていた。
誰も言わなかった。
五百回の歴史で。
誰一人。
そんな答えを口にしなかった。
その時だった。
一人。
また一人。
黒星王達が笑い始める。
最初は小さく。
やがて大きく。
そして。
五百人全員が笑っていた。
ルナリアが驚く。
クロノも目を見開く。
第四百九十九世界の黒星王が振り返る。
「聞いたか」
その声に。
他の黒星王達が頷く。
「俺達には辿り着けなかった答えだ」
「だから負けたんだろうな」
「救うことしか考えてなかった」
「倒すことしか考えてなかった」
「終わらせることを忘れていた」
静かな笑い声が広がる。
そこに悔しさはない。
あるのは安堵だった。
ようやく。
ようやく答えが見つかった。
そんな安堵だった。
そして。
五百人の黒星王達が同時に前へ出る。
創造主が微笑む。
終焉が静かに見つめる。
アーカイヴも黙って観測している。
五百人の黒星王達は。
シオンの前で立ち止まった。
そして。
全員が膝をつく。
ルナリアが息を呑む。
クロノが絶句する。
歴代最強の英雄達。
五百回の黒星王達。
その全員が。
シオンへ頭を下げていた。
第四百九十九世界の黒星王が静かに告げる。
「認める」
一人が言う。
「認める」
また一人。
さらに一人。
やがて。
五百人全員の声が重なる。
『五百回目の黒星王を承認する』
轟音。
オリジン・アーカイヴ全体が光に包まれる。
アーカイヴの銀色の瞳が揺れた。
創造主が笑う。
終焉が目を閉じる。
そして。
世界樹アルファへ続く道が。
ついに開かれた。




