世界樹アルファへの道
オリジン・アーカイヴの崩壊は続いていた。
巨大な亀裂が空間を走る。
五百回分の歴史が光となって消えていく。
世界終了まで残り五日。
もはや一刻の猶予もなかった。
創造主は静かに手を掲げる。
すると空間に巨大な光の地図が広がった。
世界全土。
セレスティア。
浮遊大陸群。
天空神殿エデン。
世界樹都市アストレア。
そして。
誰も知らない最果ての領域。
世界地図の外側。
白い空白の場所。
そこに一本の巨大な光柱が描かれていた。
ルナリアが息を呑む。
「これが……」
創造主は頷く。
「世界樹アルファだ」
巨大な樹だった。
いや。
樹という表現では足りない。
世界そのものだった。
根は全ての大陸へ繋がり。
枝は無数の世界線へ伸びている。
葉一枚一枚が別の未来。
別の可能性。
別の歴史。
まさに世界の中心。
全ての起点。
「創造主が最初に作った場所」
ゼロが静かに呟く。
創造主は微笑んだ。
「正確には違う」
全員が顔を上げる。
創造主は世界樹を見つめる。
懐かしそうに。
少し寂しそうに。
「世界樹アルファは私より先に存在していた」
静寂。
クロノが固まる。
「待て……」
「創造主より前だと?」
あり得ない。
世界を作った存在より古いものなど。
存在するはずがない。
だが創造主は頷いた。
「世界樹アルファは可能性そのものだ」
「始まりでも終わりでもない」
「世界が生まれる前から存在する観測点」
理解できない。
だが。
シオンだけは何となく感じていた。
世界樹アルファ。
その名を聞いた瞬間から。
胸の黒星晶が反応している。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
何かを呼んでいる。
何かが待っている。
そんな感覚だった。
その時。
終焉が初めて口を開く。
『そこへ向かうのか』
創造主は頷く。
『無意味だ』
低い声。
だが以前ほどの敵意はない。
『世界樹アルファは既に侵食されている』
その言葉に空気が凍る。
創造主の表情が変わった。
「どこまで進んでいる」
終焉は空を見る。
赤い瞳がゆっくり細くなる。
『七割』
静寂。
ルナリアの顔色が変わる。
クロノが拳を握る。
七割。
それは絶望的な数字だった。
世界樹アルファが完全侵食されれば。
世界終了術式は完成する。
つまり。
残された時間は五日もない可能性がある。
『急げ』
終焉が静かに言う。
全員が驚く。
終焉自身が。
世界を滅ぼそうとしていた存在が。
シオン達へ急げと言ったのだ。
終焉は顔を背ける。
『勘違いするな』
少し不機嫌そうな声。
『私も知りたいだけだ』
『五百回目の答えを』
シオンは小さく笑った。
少しだけ。
本当に少しだけ。
終焉もまた。
希望を見始めている。
そう感じたからだった。
その時だった。
オリジン・アーカイヴ全体に激震が走る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――――!!
巨大な揺れ。
書架が崩壊する。
空間そのものが裂ける。
創造主が振り返る。
その表情は険しい。
「来たか」
次の瞬間。
裂けた空間の向こうから。
純白の光が現れた。
ルナリアが目を見開く。
クロノが絶句する。
シオンも息を呑んだ。
そこに立っていたのは。
白い法衣。
銀色の瞳。
感情を持たない顔。
管理者達だった。
だが。
その数は一人や二人ではない。
百。
千。
万。
数え切れない管理者軍団。
世界終了命令を実行するための最終戦力。
そして。
その中心に立つ存在を見た瞬間。
シオンの表情が変わる。
「アーカイヴ……」
管理者の王。
世界終了命令の発令者。
全ての管理者の頂点。
その銀色の瞳が静かにシオンを見つめていた。
そして。
ゆっくり口を開く。
「五百回目の黒星王」
感情のない声。
しかし。
その奥には何かがあった。
「最終審査を開始する」
その瞬間。
オリジン・アーカイヴ最深部に。
新たな戦いの幕が上がった。




