表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/71

「黒星王覚醒」【前編②】

終末の世界に風が吹いていた。


灰が舞う。


崩れた空から黒い粒子が降り注ぎ、大地の裂け目からは赤黒い光が漏れている。


その中心に、黒星王は立っていた。


静かに。


ただ静かに。


まるで何万年もそこに立ち続けていたかのように。


シオンは拳を握る。


胸の奥が痛い。


理由は分からない。


だが、この男を見ていると苦しくなる。


他人ではない。


敵でもない。


未来の自分。


あるいは、かつての自分。


そんな感覚があった。


「お前は何なんだ」


シオンが問う。


黒星王は少しだけ空を見上げた。


「私は観測者だ」


静かな声。


「世界が生まれる瞬間を見た」


「世界が滅ぶ瞬間も見た」


「人類の誕生も」


「文明の終焉も」


「仲間との出会いも」


「その死も」


風が吹く。


黒星王の外套が揺れる。


「何度も」


その一言に、気の遠くなるような時間の重みが込められていた。


シオンは唇を噛む。


「何度もって……」


黒星王は答える。


「世界は繰り返している」


沈黙。


「星喰いによって滅び」


「創世因子によって再構築され」


「再び始まる」


「それを何度も繰り返している」


シオンはレオニクスの言葉を思い出した。


前の世界。


繰り返される歴史。


最後の観測者。


全てが繋がり始めていた。


「じゃあ……」


シオンの声が震える。


「俺は何なんだ」


黒星王は真っ直ぐに見つめた。


そして静かに告げる。


「お前だけが残る」


その言葉に、シオンの身体が硬直した。


「は?」


「世界が滅んでも」


「文明が消えても」


「時間が巻き戻っても」


「お前だけは記憶の欠片を持ち続ける」


黒星王の瞳に寂しさが宿る。


「それが観測者だ」


シオンは理解できなかった。


いや。


理解したくなかった。


「待てよ……」


「じゃあ俺は……」


言葉が続かない。


黒星王が代わりに言った。


「何度も仲間を失う」


沈黙。


「何度もルナリアを失う」


シオンの心臓が止まりそうになる。


「何度もガルドを失う」


「何度もアリアを失う」


「何度もエリナを失う」


一歩。


黒星王が近づく。


「その度に世界はリセットされる」


「だがお前だけは覚えている」


シオンの呼吸が乱れる。


想像するだけで吐き気がした。


仲間を失う。


それだけでも辛い。


だが、それを何百回も。


何千回も。


繰り返す。


そんなものは拷問だ。


「ふざけるな……」


シオンが呟く。


黒星王は否定しない。


「ふざけている」


苦笑する。


「だから私は壊れた」


その言葉にシオンは顔を上げた。


黒星王の表情は穏やかだった。


だがその奥には。


果てしない孤独があった。


「最初は救おうとした」


「二回目も」


「十回目も」


「百回目も」


「千回目も」


「ずっと」


拳を握る。


「だが限界だった」


空が崩れる。


大地が揺れる。


終末世界そのものが共鳴している。


「守れなかった」


「誰一人」


「完全には」


シオンは黙って聞いていた。


否定できない。


この男の苦しみは本物だった。


だからこそ。


シオンは聞いた。


「それで」


黒星王を見る。


「諦めたのか」


沈黙。


長い沈黙だった。


やがて。


黒星王は小さく笑った。


「諦めていたら」


ゆっくりと手を差し出す。


「お前に会いに来ない」


シオンの瞳が揺れた。


黒星王は続ける。


「私は最後に賭けた」


「未来の自分に」


風が吹く。


終末世界が揺れる。


「だから聞く」


黒星王の瞳が真っ直ぐ向けられる。


「シオン」


初めて名前を呼ばれた。


未来の自分に。


「お前は何のために戦う」


シオンは黙る。


世界を救うためか。


仲間を守るためか。


そんな綺麗な答えが浮かばない。


だが。


脳裏に浮かんだのは。


ルナリアの笑顔だった。


エリナの騒がしい声。


ガルドの不器用な優しさ。


アリアのぎこちない微笑み。


それだけだった。


シオンは答える。


「守りたい奴がいる」


黒星王は静かに聞いている。


「世界とか」


「未来とか」


「そんなの正直よく分からねぇ」


苦笑する。


「でも」


拳を握る。


「目の前で泣いてる奴は助けたい」


「仲間は死なせたくない」


「それだけだ」


沈黙。


終末世界に風が吹く。


やがて。


黒星王は笑った。


初めてだった。


本当に救われたような笑顔だった。


「それでいい」


シオンが目を見開く。


「え?」


「それで良かったんだ」


黒星王の身体から光が溢れ始める。


崩壊。


時間切れだった。


この世界そのものが消え始めている。


「聞け」


黒星王が言う。


「これからお前は選ぶ」


「守るか」


「壊すか」


「救うか」


「終わらせるか」


その声が遠ざかる。


「だが忘れるな」


身体が光になる。


「お前は私じゃない」


終末世界が崩れる。


空が砕ける。


大地が消える。


「未来は決まっていない」


最後に。


黒星王は微笑んだ。


「今度こそ」


まるで祈るように。


「仲間を守れ」


光が弾けた。


そして――。


現実へ引き戻される。


アストレア。


世界樹最深部。


シオンの瞳が開く。


黒い光が吹き荒れていた。


世界樹が震える。


都市が揺れる。


そしてレオニクスは息を呑んだ。


シオンの背後。


黒い粒子が集まり。


王冠のような輪郭を描いていた。


黒星王の象徴。


伝説の姿。


完全覚醒まで。


あと一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ