創造主との再会
静寂だった。
崩壊していたオリジン・アーカイヴが。
ほんの一瞬だけ静止する。
砕け落ちていた書架も。
消えかけていた記録も。
終焉による侵食すらも。
全てが止まった。
時間そのものが息を止めたかのようだった。
純白でもない。
漆黒でもない。
光と闇が混ざり合う扉。
その向こうから。
一人の男が現れる。
銀色の髪。
蒼い瞳。
静かな微笑み。
創世の書に描かれていた人物。
世界を創った存在。
創造主。
誰も言葉を発せなかった。
ルナリアも。
クロノも。
ゼロでさえ。
ただ立ち尽くす。
何万年も追い求めてきた存在。
世界の始まり。
全ての原点。
その人物が今。
目の前に立っていた。
創造主は静かに周囲を見渡した。
崩壊するアーカイヴ。
終焉。
シオン。
仲間達。
そして。
ゆっくりと微笑む。
「随分待たせてしまったな」
優しい声だった。
まるで。
久しぶりに家へ帰ってきた父親のような声。
その瞬間。
終焉が震えた。
無数の赤い瞳が見開かれる。
宇宙が揺れる。
終焉自身が揺れていた。
『お前……』
震える声。
信じられないという声。
怒り。
悲しみ。
憎しみ。
全てが入り混じる。
『お前なのか……?』
創造主は静かに頷いた。
「そうだ」
その一言だけで。
終焉の感情が爆発した。
『今さら現れるな!!』
轟音。
宇宙が裂ける。
終焉の力が暴走する。
無数の黒い波動が空間を飲み込む。
『どれだけ待ったと思っている!!』
『どれだけ苦しかったと思っている!!』
『どれだけ一人だったと思っている!!』
黒い涙が溢れる。
止まらない。
何兆年分の涙。
何兆年分の孤独。
何兆年分の絶望。
全てが叫びになっていた。
『私は!!』
『私はずっと!!』
『お前を待っていたんだ!!』
静寂。
その叫びは。
世界最大の災厄の叫びではなかった。
置き去りにされた子供の叫びだった。
創造主は黙って聞いていた。
言い訳もしない。
反論もしない。
ただ。
終焉を見つめていた。
そして。
ゆっくりと頭を下げた。
ルナリアが息を呑む。
クロノも目を見開く。
ゼロも固まる。
創造主は。
世界を創った存在は。
終焉へ向かって頭を下げたのだ。
「すまなかった」
静かな声。
だが。
その言葉には全てが込められていた。
『……』
終焉が固まる。
「私は逃げた」
創造主が続ける。
「世界を守ることばかり考えた」
「人を守ることばかり考えた」
「未来を守ることばかり考えた」
蒼い瞳が揺れる。
後悔。
罪悪感。
悲しみ。
全てが宿っていた。
「だから」
創造主は終焉を見る。
真っ直ぐに。
「お前を一人にした」
沈黙。
終焉は何も言えない。
何兆年も聞きたかった言葉。
何兆年も待ち続けた謝罪。
それがようやく届いた。
だが。
遅すぎた。
あまりにも。
『……今さらだ』
掠れた声。
『今さらなんだ』
黒い涙が落ちる。
『私はもう戻れない』
創造主は静かに首を横に振る。
「違う」
終焉が顔を上げる。
創造主の視線がシオンへ向く。
そして。
微笑んだ。
「だから彼がいる」
全員の視線がシオンへ集まる。
五百回目の黒星王。
創造主の欠片。
最後の希望。
創造主はシオンを見つめる。
どこか誇らしそうに。
どこか嬉しそうに。
「私は失敗した」
「ゼロも失敗した」
「管理者も失敗した」
「観測者も失敗した」
静かな声。
「だが」
蒼い瞳が輝く。
「シオンだけは違う」
その瞬間。
シオンの黒星晶が眩く輝いた。
ドクン――
五百回分の記憶。
五百回分の希望。
五百回分の願い。
全てが共鳴する。
創造主は微笑む。
「お前なら辿り着ける」
終焉と創造主。
光と闇。
始まりと終わり。
そのどちらも救う未来へ。
その時だった。
オリジン・アーカイヴ全体に巨大な亀裂が走る。
ゴゴゴゴゴゴゴ――――ッ!!
世界が悲鳴を上げる。
ゼロの表情が変わった。
「まずい!」
クロノが振り返る。
崩壊速度が急激に上昇している。
エンド・リライト。
世界終了術式。
その完成が近付いていた。
世界終了まで。
残り五日。
そして。
創造主は静かにシオンへ手を差し出す。
「来い」
その瞳には覚悟があった。
「最後の真実を見せよう」
光が溢れる。
世界が白く染まる。
五百回目の希望は。
ついに。
世界誕生以前の真実へ辿り着こうとしていた。




