五百回目のアンサー
静寂が訪れていた。
崩壊するオリジン・アーカイヴ。
砕け散る世界の記録。
消えていく五百回分の歴史。
その中心で。
シオンは終焉を見つめていた。
星喰い。
世界最大の災厄。
全ての世界を滅ぼした存在。
だが今。
目の前にいる存在は怪物には見えなかった。
ただ。
傷付いた誰かだった。
『救う……?』
終焉が呟く。
震える声。
信じられないという表情。
その反応にルナリアは胸を締め付けられた。
今まで誰も言わなかったのだ。
五百回の世界で。
五百回の黒星王で。
五百回の英雄達で。
誰一人。
終焉を救おうとはしなかった。
倒そうとした。
封印しようとした。
消そうとした。
だが。
救おうとはしなかった。
『何を言っている……』
終焉が笑う。
乾いた笑い。
壊れた笑い。
『私は終焉だ』
赤い瞳が揺れる。
『世界を滅ぼした』
『人を殺した』
『未来を奪った』
『希望を砕いた』
声が震える。
怒りではない。
悲しみだった。
『そんな私を救う?』
黒い涙が流れる。
終焉自身が。
自分を許していなかった。
シオンは静かに前へ出る。
エクリプス・ブレイドを握ったまま。
だが。
剣を向けない。
ただ歩く。
一歩。
また一歩。
ルナリアが叫ぶ。
「シオン!」
だが。
シオンは止まらない。
終焉も動かない。
赤い瞳だけが彼を見つめている。
「お前は間違った」
静かな声だった。
終焉の瞳が揺れる。
シオンは続ける。
「たくさん壊した」
「たくさん奪った」
「たくさん傷付けた」
それは事実だった。
否定できない。
五百回の世界。
数え切れない犠牲。
全て終焉が生み出した。
だが。
シオンは首を横に振る。
「でも」
蒼い瞳が真っ直ぐ向けられる。
「最初からそうだったわけじゃない」
終焉が固まる。
シオンは知っている。
創世の書で見た。
創造主と終焉。
元は一つだった存在。
孤独だった存在。
誰かを求めていた存在。
『違う……』
終焉が呟く。
『私は終焉だ』
『災厄だ』
『怪物だ』
まるで。
自分へ言い聞かせるように。
シオンは首を横に振る。
「違う」
静かな声。
だが。
強い声。
「お前はずっと寂しかっただけだ」
その瞬間だった。
終焉の瞳が大きく見開かれる。
宇宙が震える。
オリジン・アーカイヴが共鳴する。
誰も。
誰一人。
その言葉を言わなかった。
何兆年もの間。
一度も。
『やめろ……』
終焉が震える。
『言うな……』
声が掠れる。
シオンは止まらない。
「創造主に会いたかったんだろ」
『やめろ』
「思い出してほしかったんだろ」
『やめろ』
「一人にされたくなかったんだろ」
終焉が叫ぶ。
『やめろォォォォォォォ!!』
宇宙が崩れる。
空間が裂ける。
無数の赤い瞳が開く。
終焉の感情が暴走する。
何兆年も閉じ込められていた孤独。
悲しみ。
怒り。
絶望。
全てが溢れ出す。
ルナリア達は吹き飛ばされる。
ゼロも剣を突き立てて耐える。
クロノの結界が砕ける。
だが。
シオンだけは立っていた。
終焉の目の前で。
一歩も退かずに。
『私は……』
終焉の声が震える。
『私は……』
黒い涙が溢れる。
無数の瞳から。
無限の涙が流れる。
『ずっと……』
宇宙より古い声。
終焉の本音。
初めて漏れた本当の気持ち。
『会いたかった……』
静寂。
その言葉に。
ルナリアは涙を流した。
ゼロも目を閉じる。
クロノも拳を握る。
誰も責められなかった。
終焉は最初から怪物ではなかった。
ただ。
誰よりも孤独だっただけだった。
その時だった。
シオンの胸の黒星晶が眩く輝く。
ドクン――
創造主の記憶。
終焉の記憶。
五百回分の黒星王の記憶。
全てが一つになり始める。
創世の書が最後の光を放つ。
そして。
シオンの前に。
一つの扉が現れた。
純白でもない。
漆黒でもない。
光と闇が混ざり合う扉。
ゼロの顔色が変わる。
「まさか……」
震える声。
何万年も探し続けた場所。
誰も辿り着けなかった領域。
創造主と終焉が分かれた場所。
世界の原点。
全ての始まり。
扉はゆっくり開き始める。
そして。
その奥から。
一人の人影が姿を現した。
銀色の髪。
蒼い瞳。
どこかシオンに似た顔立ち。
どこかアーカイヴに似た面影。
創世の書に記されていた男。
世界を創った存在。
創造主本人が。
ついに姿を現した。




