終焉との対話
オリジン・アーカイヴ最深部。
世界の始まりが記録された神域。
その中心で。
シオンと星喰いは向かい合っていた。
終焉。
世界誕生以前から存在する災厄。
創造主が切り離した絶望。
孤独。
喪失。
全ての負の感情が集まった存在。
無数の赤い瞳がシオンを見つめている。
逃げ場はない。
隠れる場所もない。
世界そのものが視線に晒されていた。
『シオン・アルヴィス』
低い声。
宇宙の奥底から響くような声だった。
『五百回目の黒星王』
赤い瞳が細くなる。
『ようやく会えた』
その言葉にルナリアが眉をひそめる。
会えた。
まるで。
ずっと探していた相手へ向ける言葉だった。
シオンも違和感を覚える。
殺意はある。
圧倒的な殺意だ。
だが。
それだけではない。
そこには別の感情も混じっていた。
悲しみ。
寂しさ。
怒り。
憎しみ。
そして。
諦め。
何万年も積み重なった感情だった。
シオンは剣を握る。
エクリプス・ブレイド。
黒い刀身が静かに震えていた。
「お前は何なんだ」
静かな問い。
終焉へ向けた問い。
星喰いは笑った。
世界を震わせる低い笑い。
『創世の書を読んだだろう』
空間が歪む。
無数の記録が浮かび上がる。
創造主。
世界誕生。
第一世界。
そして。
世界ループ。
『私は捨てられた』
赤い瞳が揺れる。
『孤独を』
『絶望を』
『悲しみを』
『終わりを』
『全て私に押し付けた』
ルナリアの表情が曇る。
その声には怒りがあった。
当然だった。
創造主は世界を創った。
だが。
そのために負の感情を切り離した。
結果として生まれたのが星喰い。
終焉だった。
『私は最初から不要だった』
静かな声。
だが。
その言葉には想像を絶する重みがあった。
何兆年もの孤独。
何兆年もの絶望。
誰にも理解されない苦しみ。
それら全てが込められていた。
ゼロが静かに目を閉じる。
理解していた。
今まで誰も気付かなかった真実。
星喰いは悪ではなかった。
ただ。
あまりにも悲しすぎただけだった。
『だから私は壊した』
星喰いが言う。
『世界を』
『未来を』
『希望を』
『何度も』
『何度も』
『何度も』
赤い瞳がシオンを見つめる。
『理解できるか』
静寂。
誰も答えない。
答えられない。
だが。
シオンだけは違った。
蒼い瞳が揺れる。
胸が苦しい。
なぜか分からない。
だが。
星喰いの言葉が他人事に思えなかった。
孤独。
喪失。
絶望。
全てを失う感覚。
シオンも知っている。
世界から忘れられた。
存在を消された。
誰も自分を覚えていない世界で一人だった。
あの三年間。
ほんの少しだけ。
理解してしまった。
星喰いの孤独を。
『そうだ』
星喰いが微笑む。
初めてだった。
終焉が優しく笑ったのは。
『お前なら分かる』
黒星晶が激しく脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
記憶が流れ込む。
知らないはずの感情。
知らないはずの涙。
知らないはずの絶望。
それらが心を満たしていく。
ルナリアが叫ぶ。
「シオン!」
シオンはハッとする。
気付けば。
赤い瞳の海へ歩き出していた。
まるで呼ばれているように。
星喰いが手を伸ばす。
巨大な黒い手。
終焉そのもの。
『来い』
静かな声。
『終わらせよう』
『苦しみも』
『戦いも』
『世界も』
『全て』
空間が震える。
オリジン・アーカイヴが崩壊を続ける。
創世の書も揺れている。
ゼロが剣を握る。
クロノも構える。
ルナリアは涙を浮かべながらシオンを見る。
だが。
その時だった。
創世の書が眩く輝いた。
ページが勝手にめくられる。
最後の記録。
最後の言葉。
そして。
創造主が残した最後のメッセージが浮かび上がる。
その文字を見た瞬間。
シオンの瞳が大きく見開かれた。
世界を救う最後の鍵。
五百回目の黒星王だけに託された希望。
その真実が。
今まさに明かされようとしていた。




