五百回目の黒星王
静寂だった。
誰も言葉を発せない。
創世の書に映し出された最後の記録。
そこに描かれていたのは。
間違いなくシオンだった。
黒髪。
蒼い瞳。
黒い外套。
黒き大剣。
誰が見てもシオン・アルヴィスだった。
ルナリアが震える。
「どういうこと……?」
掠れた声。
理解が追いつかない。
創造主。
世界誕生。
星喰い。
管理者。
その全ての先に。
なぜシオンがいるのか。
クロノも顔を強張らせる。
「創造主は五百回目の黒星王によって完成する……?」
創世の書に刻まれた文字。
それは予言ではない。
記録だった。
既に決まっている未来。
既に観測された可能性。
ゼロは苦しそうに目を閉じる。
「そこから先が」
静かな声。
「俺達でも辿り着けなかった領域だ」
シオンが振り返る。
「どういう意味だ」
ゼロは創世の書を見る。
何万年も追い続けた答えを。
「四百九十九回の世界で」
「俺達は全て試した」
「星喰い討伐」
「世界再構築」
「管理者進化」
「観測者統合」
「可能性収束」
「全部だ」
空間に無数の世界が映し出される。
滅んだ世界。
失敗した未来。
絶望した黒星王達。
その数は数え切れない。
「だが」
ゼロの声が重くなる。
「最後だけは辿り着けなかった」
創世の書が輝く。
そして。
新たな映像が現れた。
それは未来だった。
まだ誰も見たことのない未来。
世界の終着点。
そこにはシオンがいた。
ただ一人で。
世界の果てに立っていた。
その光景にルナリアが息を呑む。
なぜなら。
シオンの身体が光になっていたからだ。
崩壊している。
消滅している。
存在そのものが世界へ溶け込んでいる。
「シオン……」
ルナリアが呟く。
だが。
映像の中のシオンは笑っていた。
苦しそうではない。
悲しそうでもない。
まるで。
ようやく辿り着いた人間の顔だった。
創世の書が文字を映し出す。
【世界は不完全である】
【創造主も不完全である】
【ゆえに終焉は生まれた】
次の文字が現れる。
【五百回目の黒星王】
【最後の観測者】
【全世界の記憶保持者】
【世界補完因子】
シオンの胸の黒星晶が激しく脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
記憶が揺れる。
知らないはずの記憶。
見たことのない景色。
感じたことのない感情。
それらが流れ込んでくる。
ゼロが目を見開いた。
「まさか……」
創世の書がさらにページをめくる。
そして。
最も深い真実を映し出した。
【五百回目の黒星王は英雄ではない】
静寂。
誰も動けない。
【五百回目の黒星王は世界そのものである】
ルナリアの顔色が変わる。
クロノも言葉を失う。
シオン自身も理解できない。
だが。
創世の書は続く。
【創造主は孤独だった】
【ゆえに世界を創った】
【世界は不完全だった】
【ゆえに終焉が生まれた】
【五百回目の黒星王は】
【創造主が失った最後の欠片である】
世界が震える。
オリジン・アーカイヴ全体が共鳴する。
ゼロの瞳が揺れていた。
何万年も追い続けた答え。
その正体。
「そういうことだったのか……」
初めてだった。
最初の黒星王が心から驚いたのは。
シオンは拳を握る。
胸が熱い。
何かを思い出しそうになる。
遠い記憶。
遥か昔の感覚。
誰かの願い。
誰かの孤独。
誰かの涙。
それら全てが自分の中にある気がした。
その時だった。
創世の書の最後のページが開く。
眩い光。
膨大な情報。
そして。
そこに現れた一つの言葉。
【終焉を終わらせる方法】
全員の視線が集まる。
世界を救う方法。
星喰いを倒す方法。
五百回繰り返された戦いの答え。
ついにその真実が明かされようとしている。




