創造主
静寂だった。
誰も言葉を発せない。
世界は星喰いを封印するための檻。
その事実だけでも十分すぎる衝撃だった。
だが。
創世の書は止まらない。
光が溢れる。
無数の文字が空間を埋め尽くす。
世界誕生以前。
誰も知らない神話以前の歴史。
その全てが映し出されていく。
闇。
ただひたすらに闇だった。
星もない。
時間もない。
空間すら存在しない。
完全なる無。
その中心で。
巨大な黒い繭が鼓動している。
星喰い。
終焉。
全てを喰らう原初の災厄。
宇宙より古く。
概念より先に存在した存在。
それは眠っていた。
永遠に。
静かに。
だが。
ある時。
異変が起きる。
闇の中に小さな光が生まれた。
本当に小さな光。
だが。
それは確かに存在していた。
ルナリアが息を呑む。
「これ……」
光は徐々に大きくなる。
成長する。
広がる。
増殖する。
まるで命のように。
まるで希望のように。
やがて。
光は一人の人間の姿になった。
白い髪。
銀色の瞳。
長い外套。
その姿を見た瞬間。
クロノが絶句した。
ルナリアも固まる。
シオンも目を見開く。
「アーカイヴ……」
違う。
だが同じだった。
管理者の王によく似ている。
しかし。
もっと若い。
もっと人間らしい。
その男は静かに星喰いを見つめていた。
何億年も。
何兆年も。
たった一人で。
そして。
男は呟く。
『寂しいな』
その言葉に全員が凍り付く。
予想外だった。
神の言葉ではない。
創造主の言葉でもない。
孤独な人間の言葉だった。
男は一人だった。
世界には誰もいない。
会話する相手もいない。
触れ合う存在もいない。
あるのは終焉だけ。
無限の闇だけ。
永遠の孤独だけ。
だから。
男は願った。
『誰かがいてほしい』
静かな願い。
たったそれだけだった。
その瞬間。
光が広がる。
無数の星が生まれる。
銀河が生まれる。
時間が生まれる。
空間が生まれる。
生命が生まれる。
そして。
世界が生まれた。
シオン達は息を呑む。
世界創造。
神話ではない。
伝説でもない。
真実だった。
男は世界を作った。
誰かと出会うために。
孤独を終わらせるために。
たったそれだけの理由で。
ゼロが苦しそうに目を閉じる。
知っていたのだ。
この真実を。
ずっと。
創世の書は続く。
男は人々を愛した。
生命を愛した。
文明を愛した。
未来を愛した。
だから守ろうとした。
星喰いから。
終焉から。
全てを。
しかし。
限界があった。
星喰いは強すぎた。
世界だけでは封印できない。
そこで男は選択する。
自らを分割した。
知識を分割した。
権限を分割した。
記憶を分割した。
そして生まれた。
観測者。
管理者。
世界維持機構。
全ての始まり。
ルナリアが震える。
「じゃあ……」
声が掠れる。
「管理者は創造主の一部……?」
ゼロが静かに頷く。
「そうだ」
重い声だった。
「アーカイヴも」
「観測者も」
「全ては創造主から生まれた」
世界が静まり返る。
今まで敵だと思っていた存在。
管理者達。
その正体は世界を守るために作られた守護者だった。
だが。
シオンは気付いていた。
まだ終わっていない。
まだ最大の謎が残っている。
創造主はどこへ消えたのか。
なぜ世界ループが始まったのか。
なぜ黒星王が必要なのか。
そして。
なぜ自分が選ばれたのか。
その時だった。
創世の書のページが勝手にめくられる。
次の記録。
最終記録。
最後の真実。
ゼロの顔色が変わる。
「待て……」
創世の書は止まらない。
ページが開く。
そこに描かれていた人物を見た瞬間。
シオンの瞳が大きく見開かれた。
黒髪。
蒼い瞳。
黒い外套。
そして。
エクリプス・ブレイド。
そこに描かれていたのは。
創造主ではない。
アーカイヴでもない。
ゼロでもない。
――シオン・アルヴィスだった。
そして。
創世の書は最後の一文を映し出す。
【創造主は五百回目の黒星王によって完成する】
世界が震えた。
REBIRTH最大の秘密がついに明かされようとしていた。




