創世の書
Genesis――。
その文字が刻まれた瞬間。
オリジン・アーカイヴ全体が共鳴した。
無限の書架。
無限の記録。
五百回分の世界。
その全てが光を放ち始める。
まるで。
王の帰還を歓迎するように。
ルナリアは息を呑んだ。
「これが……」
震える声。
目の前には一冊の書物が浮かんでいる。
大きさは普通の本と変わらない。
だが。
その存在感は世界そのものだった。
表紙は純白。
しかし角度によって黒にも見える。
光にも闇にも見える。
まるで世界の始まりと終わりを同時に内包しているかのようだった。
クロノも言葉を失う。
「こんな記録媒体……見たことがない」
ゼロは静かに書を見つめる。
長い時間を経て。
ようやく辿り着いた場所を見るように。
「当然だ」
静かな声。
「これは世界そのものだからな」
その言葉に全員が固まる。
シオンも眉をひそめた。
「世界そのもの?」
ゼロは頷く。
そして。
ゆっくりと創世の書へ歩み寄る。
「この本には記録されている」
「世界誕生以前の歴史」
「星喰い誕生の真実」
「観測者誕生の理由」
「管理者計画の全て」
そして。
蒼い瞳がシオンを見る。
「黒星王計画の最終目的も」
静寂。
誰も言葉を発しない。
知りたい。
だが。
知るのが怖い。
そんな感情が胸の奥で交錯する。
その時だった。
創世の書が反応する。
ドクン――
心臓の鼓動のような音。
黒星晶が脈打つ。
シオンの胸が熱くなる。
蒼黒い光が身体から溢れ出した。
「っ……!」
ルナリアが振り返る。
シオンの身体を包む光。
それは今までとは違う。
黒星王の力そのものが共鳴している。
ゼロが小さく微笑む。
「やはりな」
「やはりお前だった」
創世の書が開いていく。
誰も触れていない。
勝手に。
まるでシオンを待ち続けていたかのように。
ページがめくられる。
一枚。
また一枚。
無数の文字。
無数の記録。
無数の歴史。
そして。
最後のページで止まった。
そこに描かれていたのは。
一人の人物だった。
ルナリアが目を見開く。
クロノも絶句する。
シオン自身も息を呑む。
そこに描かれていた人物は。
黒髪。
蒼い瞳。
黒い外套。
エクリプス・ブレイド。
まるで今のシオンそのものだった。
「なんで……」
シオンが呟く。
創世の書は世界誕生以前の記録。
なのに。
なぜ自分が描かれている。
ゼロは静かに答えた。
「未来だからだ」
その言葉と同時に。
空間が大きく揺れる。
創世の書から光が溢れる。
そして。
シオン達の意識は再び引き込まれた。
光の中へ。
記録の中へ。
世界誕生以前へ。
誰も知らない時代へ。
そこには何もなかった。
空もない。
星もない。
命もない。
完全なる無。
無限の闇。
無限の静寂。
その中心に。
ただ一つだけ存在するものがあった。
巨大な黒い繭。
宇宙より巨大な闇。
鼓動している。
生きている。
そして。
その存在を見た瞬間。
ゼロの表情が凍った。
ルナリアが震える。
クロノが息を呑む。
シオンの黒星晶が激しく脈打つ。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
本能が理解していた。
これは星喰いだ。
だが。
今まで見てきた星喰いではない。
もっと根源的な何か。
もっと古い何か。
世界より先に存在した災厄。
創世の書が静かに文字を浮かび上がらせる。
【最初に存在したもの】
【終焉】
【星喰い】
そして。
さらに次の文字が現れる。
その瞬間。
ゼロの顔色が変わった。
「やめろ……」
初めてだった。
最初の黒星王が恐怖を見せたのは。
しかし。
創世の書は止まらない。
文字が浮かぶ。
真実が記される。
世界最大の秘密が。
ゆっくりと姿を現す。
【世界は星喰いを封印するために創られた】
静寂。
誰も動けない。
誰も息ができない。
世界を守るために戦っていたはずだった。
だが違う。
世界そのものが。
最初から。
星喰いを閉じ込める檻だったのだ。
そして。
創世の書はさらにページをめくる。
最も深い真実へ。
誰も知らない。
創造主の正体へ――。




