最後の扉
オリジン・アーカイヴ最深部。
誰も到達したことのない領域。
世界誕生以前の記録が眠る場所。
その巨大な扉はゆっくりと開いていた。
轟音が響く。
まるで世界そのものが目覚めるような音だった。
シオン達は立ち尽くしていた。
目の前に広がる光景を理解できなかったからだ。
扉の向こうには空間が存在しなかった。
大地もない。
空もない。
海もない。
ただ無数の光だけが漂っている。
星々のように。
魂のように。
記憶のように。
数え切れない光が静かに浮かんでいた。
「これは……」
ルナリアが呟く。
声が震えている。
ゼロは静かに答えた。
「可能性だ」
その言葉に全員が顔を上げた。
ゼロは光の海を見つめる。
懐かしそうに。
そして少し悲しそうに。
「ここには五百回分の世界が保存されている」
静寂が訪れる。
シオンは息を呑む。
五百回。
世界が滅びた回数。
世界が繰り返された回数。
黒星王が戦った回数。
その全てが、この場所に眠っている。
「全部残ってるのか……」
クロノが呟く。
ゼロは頷いた。
「滅びた世界は消えない」
「観測された記録は永遠に残る」
光の一つに触れる。
すると空間に映像が浮かび上がった。
滅びた都市。
燃え上がる空。
倒れた英雄。
絶望する人々。
そして。
世界を覆う星喰い。
一瞬だった。
だが十分だった。
それが失敗した世界の記録だと理解するには。
ルナリアが胸元を押さえる。
「苦しい……」
流れ込んでくる。
数え切れない悲しみ。
数え切れない絶望。
数え切れない後悔。
それら全てが、この場所には残されていた。
シオンは黙っていた。
蒼い瞳が光の海を見つめる。
不思議だった。
恐怖はない。
むしろ懐かしさを感じる。
自分が知らないはずの記録なのに。
どこかで見た気がする。
どこかで体験した気がする。
その時だった。
一つの光が反応する。
ドクン――
黒星晶が脈打つ。
光がシオンの前へ浮かび上がる。
他の光とは違う。
蒼黒く輝いていた。
ゼロの表情が変わる。
「やはりか」
シオンが振り返る。
「何だこれ」
ゼロは答えない。
ただ静かに見つめる。
蒼黒い光はゆっくりと形を変えていく。
人の姿へ。
黒髪。
蒼い瞳。
黒い外套。
そして。
黒い剣。
ルナリアが息を呑む。
クロノも固まる。
シオン自身も目を見開いていた。
目の前に現れたのは。
自分だった。
だが違う。
瞳に光がない。
希望もない。
優しさもない。
そこにあるのは絶望だけだった。
世界の全てを失った人間の目。
「こいつは……」
シオンが呟く。
ゼロは静かに答える。
「第四百九十九世界の黒星王」
空気が凍り付く。
前回の世界。
シオンの直前の黒星王。
最も成功に近付き。
そして最も深く絶望した存在。
蒼黒い幻影がゆっくり顔を上げる。
そして。
シオンを見た。
まるで本物の人間のように。
まるで意識を持っているかのように。
「……また来たのか」
低い声。
重い声。
その一言だけで全員が凍り付いた。
幻影ではない。
記録でもない。
そこには確かな意思が存在していた。
ゼロが静かに目を閉じる。
「始まるな」
その言葉と共に。
蒼黒い幻影の瞳が輝く。
オリジン・アーカイヴ全体が震え始める。
五百回積み重ねられた世界。
五百回積み重ねられた絶望。
そして。
五百回目の希望。
シオン・アルヴィスが生まれた本当の理由が。
今、明かされようとしていた。




