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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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世界ループの始まり

世界は滅んでいた。


空は、もう存在しない。


海も。


風も。


生命の気配さえも。


かつて理想郷と呼ばれた第一世界は、灰色の静寂だけを残していた。


地平線の果てまで続く死の大地。


焼け焦げた瓦礫。


崩れ落ちた都市。


誰一人として生き残ってはいない。


その世界の中心で――。


若きゼロは静かに膝をついていた。


握り締めていた剣は砕け散り。


全身は血と傷に覆われている。


守れなかった。


救えなかった。


託された未来も。


人々の願いも。


希望も。


何一つ残せなかった。


残ったのは、果てしない静寂だけだった。


「……終わった。」


掠れた声が漏れる。


涙すら流れない。


絶望が深すぎて、悲しみという感情さえ失われていた。


その時だった。


コツ――。


乾いた足音が響く。


生命の消えた世界で、ただ一つだけ響く音。


ゼロはゆっくりと顔を上げた。


そこに、一人の男が立っていた。


純白の法衣。


静かな銀色の瞳。


端正な顔立ち。


その姿は、未来のアーカイヴによく似ている。


だが、決定的に違っていた。


その瞳には感情があった。


深い悲しみ。


長い苦悩。


そして、底知れぬ孤独。


「……誰だ。」


ゼロが絞り出すように問いかける。


男は静かに答えた。


「観測者。」


その一言に、シオンたちの表情が変わる。


観測者。


ゼロより前。


管理者より前。


アーカイヴより前。


誰も知らなかった存在。


世界の歴史からさえ消えていた名だった。


男は滅びた世界を静かに見渡す。


崩れた街。


灰となった大地。


消え去った命。


そして、小さく目を閉じた。


「……また失敗したか。」


その一言に、ゼロが顔を上げる。


「また……?」


男は静かに頷いた。


「ああ。」


その声は穏やかだった。


あまりにも穏やかすぎて、かえって恐ろしい。


「これで三百七十二回目だ。」


世界が静まり返る。


ルナリアは息を呑み。


クロノの表情から血の気が引く。


シオンも思わず目を見開いた。


三百七十二回。


その数字が意味するものは、一つしかない。


この男は――。


同じ滅亡を、何百回も見届けてきた。


ゼロも理解できず、震える声で問い返す。


「……何を言っている。」


男はゆっくりと振り返る。


銀色の瞳が静かにゼロを映す。


冷たく。


それでいて、どこまでも優しい眼差しだった。


「世界は、何度も滅んだ。」


その言葉が、静かに響く。


「そして私は、何度も見届けてきた。」


「星喰いに敗北する世界を。」


ゼロの瞳が揺れる。


男は淡々と続けた。


「お前は失敗した。」


その言葉は鋭く突き刺さる。


だが、その直後。


静かに首を振った。


「だが。」


「失敗したのは、お前だけではない。」


世界に沈黙が流れる。


その静寂の中で。


男は空へ向かって片手を掲げた。


何もないはずの空間へ、無数の光が浮かび上がる。


別の世界。


別の歴史。


別の未来。


無数の可能性。


そこには、数え切れない黒星王がいた。


数え切れない英雄がいた。


そして――。


誰一人として勝てなかった。


星喰いに。


絶望に。


運命に。


「……そんな。」


ルナリアの声が震える。


「全部……滅んだの?」


男は静かに頷いた。


「そうだ。」


残酷なほど穏やかな声だった。


「どの世界も。」


「どの未来も。」


「どの可能性も。」


「星喰いには勝てなかった。」


クロノは強く拳を握る。


ようやく理解した。


管理者が生まれた理由。


世界を何度も繰り返した理由。


膨大な記録を集め続けた理由。


すべては――。


星喰いを倒せる、たった一つの可能性を探すためだった。


男は再びゼロを見る。


そして。


ゆっくりと右手を差し出した。


「だから。」


銀色の光が世界を包む。


滅びた大地が震え始める。


砕けた都市が揺らぐ。


時間が逆流していく。


崩壊した歴史が巻き戻される。


世界そのものが、書き換わっていく。


男は穏やかに微笑んだ。


「もう一度、やってみるか。」


ゼロの瞳が揺れる。


失われた未来。


守れなかった仲間。


届かなかった願い。


そのすべてを取り戻せるかもしれない。


そんな希望が胸を満たしていく。


男は静かに続けた。


「次こそ、救えるかもしれない。」


甘い言葉だった。


希望だった。


奇跡だった。


そして――。


数万年にも及ぶ悲劇の始まりでもあった。


ゼロは震える手をゆっくりと伸ばす。


迷いながら。


苦しみながら。


それでも、その手を取った。


二人の手が重なった瞬間。


世界は純白の光に包まれる。


第一世界が消えていく。


滅びた歴史が消えていく。


すべてが白へ還り。


新たな世界が産声を上げる。


第二世界。


世界ループ第一回。


管理者誕生以前。


すべての世界改変の原点。


その瞬間が、シオンたちの目の前で静かに始まった。


光景がゆっくりと薄れていく。


その中で。


現在のゼロだけが、静かにその景色を見つめていた。


口元には、かすかな微笑み。


けれど、その瞳に宿るのは喜びではない。


消えることのない後悔。


もし、あの日。


あの手を取らなければ。


違う未来があったのだろうか――。


そんな問いを、今なお胸に抱き続けているかのようだった。

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