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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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もう一人の黒星王

飛行艇ルミナスの甲板に、重い静寂が降りた。


誰も言葉を発せない。


世界の中心。


オリジン・アーカイヴの目前。


そこに、一人の男が立っていた。


黒い髪。


深く澄んだ蒼い瞳。


夜風に揺れる漆黒の外套。


その姿は、シオンと酷似していた。


いや。


似ているという言葉では足りない。


同じだった。


まるで鏡の中から、もう一人の自分が現れたかのように。


「……誰だ。」


レオニクスが低く呟く。


その右手は、すでに剣の柄へ伸びていた。


アリアも無言のまま短剣を握り締める。


本能が警鐘を鳴らしていた。


危険だ。


目の前の男は、人ではない。


存在そのものが異質だった。


シオンもまた、静かに目を細める。


胸元の黒星晶が脈打つ。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


鼓動は次第に速くなっていく。


まるで、目の前の男と共鳴しているかのようだった。


初めて会うはずなのに。


懐かしい。


そして、どうしようもなく悲しい。


説明のつかない感覚が胸の奥を満たしていく。


男はゆっくりと微笑んだ。


敵意はない。


殺気もない。


だが、その存在感だけで空間が歪んで見える。


まるで世界そのものが、彼を中心に呼吸しているようだった。


「……ようやく来たな。」


穏やかな声だった。


長い年月を待ち続けた者だけが持つ、静かな響き。


ルナリアが一歩前へ踏み出す。


「あなたは……。」


男は彼女へ視線を向ける。


そして、優しく微笑んだ。


「君のことも知っている。」


その一言に、ルナリアは息を呑む。


男は再びシオンを見つめた。


蒼い瞳。


その奥には、果てしない時間が宿っている。


何万年もの世界を見届けてきた者だけが持つ眼差しだった。


「久しぶりだな。」


シオンは眉をひそめる。


「……俺たちは会ったことがない。」


男は静かに頷く。


「ああ。」


そして、小さく笑う。


「今のお前とはな。」


その言葉の意味が理解できない。


だが。


胸騒ぎだけが、さらに強くなっていく。


クロノが静かに前へ出た。


「シオン。」


低く警戒を促す。


「……分かってる。」


シオンはエクリプス・ブレイドを抜いた。


漆黒の刀身が、静かな光を映し出す。


男はその剣を見ると、どこか懐かしそうに目を細めた。


「その剣も……久しぶりだ。」


「答えろ。」


シオンの声が鋭く響く。


「お前は誰だ。」


沈黙。


世界の中心を吹き抜ける風だけが、静かに流れていく。


無限に連なる書架。


空を埋め尽くす記録の光。


そのすべてが、まるで時を止めたように静まり返っていた。


男は静かに目を閉じる。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「俺の名は――ゼロ。」


その瞬間。


空気が一変した。


クロノの表情が凍りつく。


ルナリアも言葉を失う。


レオニクスは目を見開き。


アリアでさえ息を呑む。


その名を知らない者はいなかった。


神話。


伝承。


失われた歴史。


世界の始まりを語る、すべての記録に刻まれた名。


黒星王の原点。


最初の英雄。


最初の観測者。


そして――


最初の敗北者。


「……ゼロ。」


シオンが小さくその名を繰り返す。


男は静かに頷いた。


「ああ。」


その瞬間だった。


オリジン・アーカイヴ全体が共鳴を始める。


無数の書架が淡い光を放ち。


天井を埋め尽くす記録の結晶が一斉に輝き出した。


世界誕生から現在まで。


あらゆる歴史が震える。


まるで、長き眠りから目覚めた主の帰還を歓迎するかのように。


ゼロはゆっくりと辺りを見渡した。


その眼差しは、どこか懐かしく。


そして、どこまでも寂しかった。


「ここは……俺が作った。」


静かな一言。


誰も動けない。


「第一世界も。」


「管理者も。」


「観測者も。」


「黒星王も。」


一拍置き。


その言葉が世界へ落ちる。


「すべては、ここから始まった。」


ルナリアの瞳が揺れる。


クロノは完全に言葉を失っていた。


レオニクスも息を呑んだまま動かない。


だが。


シオンだけは、一歩も退かなかった。


蒼い瞳で真っ直ぐゼロを見据える。


「なら、教えてくれ。」


その声に迷いはない。


「この世界は何なんだ。」


「管理者とは何なんだ。」


「星喰いとは何なんだ。」


そして。


最も重い問いを投げかける。


「俺たちは……何のために戦っている。」


その問いは、一人の男へ向けたものではない。


世界そのものへ向けた問いだった。


ゼロは静かに微笑む。


その表情は、どこか嬉しそうで。


どこか誇らしげだった。


まるで。


何万年もの間、誰かがその問いを口にする瞬間を待ち続けていたかのように。


「……いいだろう。」


ゼロはゆっくりと振り返る。


その視線の先。


オリジン・アーカイヴ最奥。


巨大な扉が、静かに開き始める。


眩い光が溢れ出す。


膨大な記録。


世界誕生以前の歴史。


誰にも知られることのなかった真実。


永遠に封印されてきた秘密。


そして――


世界の始まり。


ゼロは静かに告げた。


「すべてを見せてやる。」


その瞬間。


世界を包み込むほどの光が爆発した。


視界は純白に染まり。


シオンたちの意識は、抗う間もなく光の奔流へ飲み込まれていく。


誰も知らない。


誰も辿り着いたことのない。


最初の世界へ――。

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