集結する仲間達
王都セレスティアの夜空に、無数の白い扉が開いていく。
純白の法陣。
管理者転送門。
停止したはずの世界修正機構が、再び静かに動き始めていた。
夜空は、白く染まっていく。
その異様な光景を前に、王都中の人々が息を呑んだ。
英雄が帰ってきた。
ようやく希望が戻った。
それなのに。
世界は再び終焉へ向かおうとしている。
感情のない声が夜空から響いた。
『世界修正工程、再開。』
『黒星王排除を最優先とする。』
『第四世界強制終了までの残存時間を再計測。』
無機質な宣告。
その一言一言が、王都の空気を冷たく凍らせていく。
シオンは静かに黒き大剣を握り締めた。
隣ではルナリアが月光を纏い、いつでも戦えるよう身構える。
束の間の再会は終わった。
そう誰もが思った、その時だった。
「相変わらず、面倒事ばっかり連れてくるな。」
広場を囲む建物の屋根から、呆れたような声が降ってくる。
聞き慣れた声だった。
シオンが振り返る。
夜風に黒い外套が揺れる。
長い黒髪。
鋭い紅の瞳。
影の暗殺者――アリア・ナイトシェイド。
かつて命を預け合った仲間だった。
アリアは屋根から軽やかに飛び降りる。
音もなく着地すると、そのままシオンの前まで歩み寄った。
しばらく無言。
互いに視線を交わす。
そして次の瞬間。
アリアの拳が一直線に振り抜かれた。
ゴッ――!!
鈍い音が広場に響く。
シオンの顔が勢いよく横へ弾かれた。
「痛っ!?」
頬を押さえるシオン。
ルナリアは思わず目を丸くし、周囲の兵士たちも言葉を失う。
アリアはじっとシオンを睨みつけた。
その紅い瞳には、うっすらと涙が滲んでいる。
「……当たり前だ。」
静かな声だった。
「三年だぞ。」
その一言が重い。
「三年も待たせやがって。」
怒っている。
そう見える。
けれど。
その怒りの奥にある感情を、シオンは誰より理解していた。
だからこそ、苦笑する。
「悪かった。」
「足りない。」
「ごめん。」
「もっとだ。」
「……本当に、ごめん。」
アリアはしばらく黙っていた。
やがて小さく息を吐き、口元を緩める。
「……なら、許してやる。」
その笑顔は、どこか懐かしかった。
旅をしていた頃と何一つ変わらない笑顔だった。
その瞬間。
王城の方角から、眩い白銀の光が夜空へ突き抜ける。
ドォォォォォン!!
巨大な光柱が天を貫いた。
次の瞬間。
光を切り裂くように、一人の騎士が姿を現す。
白銀の鎧。
蒼く澄んだ瞳。
黄金に輝く剣。
レオニクス・アストレア。
白銀の王子。
世界最強の騎士。
彼は王都上空から一直線に降り立ち、シオンの前へ静かに着地した。
しばし沈黙。
二人は何も言わず見つめ合う。
そして。
レオニクスが静かに笑った。
「帰ったか。」
「帰った。」
たったそれだけの会話。
それだけで十分だった。
レオニクスは無言で拳を差し出す。
シオンも笑いながら拳を突き出した。
ガンッ――。
拳と拳がぶつかる。
言葉よりも雄弁な、騎士同士の再会だった。
「遅かったな。」
「言われると思った。」
「当然だ。」
レオニクスは豪快に笑う。
その笑い声につられるように、広場から歓声が湧き上がった。
忘れられていた英雄たち。
失われた仲間たち。
伝説の一行が、再び集まり始めている。
まるで英雄譚が現実になったかのようだった。
その時。
柔らかな翡翠色の光が広場へ降り注ぐ。
優しい風が吹く。
花々の香りが夜空を満たす。
光の中心から、一人の少女がゆっくりと姿を現した。
白く美しい髪。
翡翠色の瞳。
神秘的な雰囲気を纏う星晶術師。
エリナ・ヴェルティア。
生命と治癒を司る少女だった。
シオンの姿を見た瞬間。
彼女の瞳から涙が溢れる。
「本当に……。」
震える声。
「生きていたんですね。」
シオンは照れくさそうに笑った。
「まあ、一応な。」
「一応じゃありません。」
エリナは首を横に振る。
涙を拭いながら微笑んだ。
「帰ってきてくれて……本当に良かった。」
飾らない言葉だった。
だからこそ。
その想いは真っ直ぐ胸へ届く。
シオンは静かに目を伏せる。
胸の奥が温かかった。
第一世界で見た希望。
虚無の観測者が最後に託した未来。
その意味が、今ようやく分かる。
一人ではない。
帰る場所がある。
待っていてくれる人がいる。
だから。
自分はここへ戻ってこられた。
その時だった。
王城の大扉がゆっくりと開く。
兵士たちが一斉に整列した。
広場に歓声が広がる。
ゆっくりと姿を現したのは、一人の青年。
王冠を戴く若き王。
セレス・グランフォード。
そして。
シオンにとって、かけがえのない親友だった。
セレスは広場を見渡し、真っ直ぐシオンを見つめる。
数秒の沈黙。
互いに笑みが浮かぶ。
「よう。」
シオンが先に声を掛けた。
セレスも笑う。
「……本当に遅い。」
その言葉に王としての威厳はない。
親友としての、ありのままの想いだった。
ルナリア。
アリア。
レオニクス。
エリナ。
セレス。
失われていた仲間たちが、再び一つの場所へ集う。
三年ぶりの再集結。
誰もが待ち続けた瞬間だった。
しかし。
誰一人として浮かれてはいなかった。
夜空では、白い法陣がなおも広がり続けていたからだ。
王都全域を覆い尽くすほど巨大な法陣。
その中心で。
巨大な影がゆっくりと蠢く。
空が軋む。
大地が震える。
管理者軍団ですら、その場へ膝をつき始めた。
無機質な声が最後の宣告を告げる。
『最終兵器起動承認。』
『終末機構解放。』
『ワールド・イーター、起動。』
その瞬間。
夜空の中心。
純白の巨人が、ゆっくりと瞼を開いた。
世界が震える。
王都全体が絶望に包まれる。
そして英雄たちは悟る。
再会を喜ぶ時間は、もう終わった。
ここから始まるのが――
本当の戦いなのだと。




