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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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希望と虚無

世界の記録庫が激しく震えていた。


無数の世界が、不規則に明滅する。


生まれた世界。


滅びた世界。


誰にも語られることなく消え去った歴史。


そのすべてが共鳴し、不安定に揺れていた。


まるで世界そのものが、この対面を恐れているかのように。


シオンは静かに男を見据える。


最初の観測者。


そして――虚無の観測者。


第一世界を滅ぼした災厄。


だが、その姿は怪物ではなかった。


そこに立っているのは、一人の人間だった。


苦しみ。


迷い。


絶望し。


それでも最後まで世界を救おうと足掻き続けた末、未来を諦めてしまった男。


男は静かに問い掛ける。


「お前は、どちらになる。」


その声は、どこまでも穏やかだった。


「黒星王か。」


赤黒い瞳が静かに細められる。


「それとも――虚無か。」


沈黙が落ちた。


世界の記録庫さえ、息を潜めたように静まり返る。


シオンはすぐには答えなかった。


答えられなかった。


黒星王。


未来を信じ続ける者。


虚無の観測者。


未来を諦めた者。


言葉だけなら単純だ。


だが、その二つを分ける境界には、想像もできないほどの苦しみがある。


失うものがある。


背負うものがある。


心を砕かれる瞬間がある。


それを、シオンは誰より知っていた。


何度も敗れた。


何度も絶望した。


仲間を失い。


世界を失い。


自分自身さえ失った。


それでも立ち上がり続けることが、どれほど苦しいことなのか。


誰よりも知っている。


男は小さく笑った。


「……その顔だ。」


シオンが眉をひそめる。


「何が言いたい。」


男は静かに目を伏せた。


「私も昔は、同じ顔をしていた。」


その一言に、シオンの瞳が揺れる。


男はゆっくりと歩き出した。


封印の残骸を踏みしめながら。


崩壊した第一世界の記憶の中を。


まるで、自らの墓標を巡るように。


「守りたかった。」


ぽつりと漏れた言葉は、驚くほど静かだった。


「誰よりも……守りたかった。」


その声に嘘はない。


「家族を。」


「仲間を。」


「世界を。」


「未来を。」


シオンは何も言わず、その言葉を受け止める。


男は歩みを止めない。


「だが、守れなかった。」


第一世界の記録が揺らぐ。


燃え盛る都市。


崩れ落ちる空。


逃げ惑う人々。


その中心で立ち尽くす、一人の青年。


誰一人救えなかった観測者。


男は静かに語り続ける。


「一人死ぬ。」


映像の中で、一人が倒れる。


「また一人死ぬ。」


誰かの泣き声が響く。


「次の日には十人死ぬ。」


街が崩れ落ちる。


「一年後には千人死ぬ。」


文明そのものが消えていく。


そして。


男は静かに目を閉じた。


「最後には――世界そのものが死ぬ。」


その言葉には怒りも絶望もない。


ただ、何万年も抱え続けた疲労だけが滲んでいた。


男はゆっくりと振り返る。


赤黒い瞳には、もはや憎しみすら宿っていない。


「希望は万能じゃない。」


静かな声が響く。


「何度願っても救えない。」


「何度戦っても届かない。」


「何度未来を信じても、すべて失われる。」


男は暗い空を見上げた。


「だから私は諦めた。」


世界がさらに暗く染まる。


「未来など存在しないと。」


「希望など幻想だと。」


「世界は終わるべきなのだと。」


その瞬間。


男の背後から、赤黒い闇が噴き上がる。


無数の黒い翼。


無数の赤黒い瞳。


第一世界を滅ぼした絶望そのもの。


それが、虚無の観測者の本質だった。


シオンは拳を強く握る。


理解できた。


この男は最初から悪ではなかった。


むしろ、その逆だ。


誰よりも世界を愛していた。


誰よりも未来を守ろうとしていた。


誰よりも、人々を救いたかった。


だからこそ壊れた。


だからこそ絶望した。


そして。


虚無になった。


男が静かに問い掛ける。


「……同情するか。」


シオンは首を横に振る。


「しない。」


男の瞳が、わずかに揺れる。


「ほう。」


シオンは静かに言葉を続けた。


「苦しかったのは分かる。」


「辛かったのも分かる。」


蒼い瞳が真っ直ぐ男を射抜く。


「でも。」


胸の黒星晶が鼓動する。


蒼黒い光が身体の奥から溢れ出した。


「だからって。」


シオンは一歩前へ踏み出す。


「諦めていい理由にはならない。」


世界が静まり返る。


男の表情から笑みが消えた。


シオンは静かに続ける。


「俺だって何度も絶望した。」


ルナリアの涙。


仲間たちとの別れ。


劇場版で交わした最後の約束。


世界から忘れ去られた、孤独な三年間。


すべてが脳裏を駆け巡る。


「何度も心が折れそうになった。」


剣を握る手に力がこもる。


「それでも。」


シオンは前を向いた。


「待っていてくれた奴がいた。」


「信じてくれた奴がいた。」


「帰る場所があった。」


蒼黒い輝きが一気に増していく。


「だから俺は――。」


第一世界が共鳴する。


無数の世界が脈打つ。


未来を信じ続けた人々の願い。


最後まで諦めなかった魂。


そのすべてが黒星晶へ集まり、シオンを包み込んでいく。


「絶対に諦めない。」


その宣言とともに。


黒星晶が眩い光を放った。


男は静かに目を閉じる。


そして、小さく笑う。


その笑みは初めて、どこか安堵を含んでいた。


「……そうか。」


懐かしい誰かを見るような優しい声。


「やはり、お前は違うな。」


しかし――。


次の瞬間。


ドォォォォォォォォォォォォォォン!!


赤黒い魔力が、世界の記録庫全体を覆い尽くした。


第一世界が悲鳴を上げる。


無数の世界が激しく揺れる。


男の瞳がゆっくりと開かれる。


そこに宿っていた優しさは消え去り。


再び、底知れぬ虚無だけが残っていた。


男は静かに右手を掲げる。


赤黒い闇が空を埋め尽くしていく。


そして、シオンを真っ直ぐ見据えた。


「なら、見せてみろ。」


その声は、世界そのものへ向けられた宣告だった。


「希望が、虚無を超えられるというのなら。」


その瞬間。


第一世界最大の戦いが幕を開ける。


黒星王。


対。


虚無の観測者。


数万年という時を超えて受け継がれてきた因縁が。


今、この世界の始まりの地で――ついに激突する。

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