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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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封印の深淵

世界の記録庫が軋んでいた。


無数の世界が、不規則に脈打っている。


生まれた世界。


滅びた世界。


誰にも知られず消え去った世界。


あらゆる歴史が光となって漂うこの空間は、本来なら永遠の静寂に包まれているはずだった。


しかし今は違う。


すべての世界が震えている。


まるで、共通の悪夢を前に怯えているかのように。


シオンは静かに剣を握り締めた。


視線の先。


第一世界の最深部。


その底知れぬ闇の奥から、赤黒い何かがゆっくりと溢れ出している。


闇。


そう呼ぶには、あまりにも異質だった。


光を喰らう。


音を喰らう。


時間さえ飲み込み。


世界という概念そのものを否定する力。


それが封印の奥から滲み出していた。


「……これが。」


シオンは息を呑む。


「虚無の観測者の力か。」


白銀の観測者は、目を離すことなく静かに首を振った。


その表情は、これまで見せたことがないほど険しい。


「正確には違う。」


「……違う?」


「これは、余波だ。」


その一言に、シオンの表情が凍り付く。


余波。


つまり。


今、目の前で世界を侵食しているこの異常ですら、本体ではない。


白銀の観測者は低く呟く。


「封印の隙間から漏れ出しているだけに過ぎない。」


蒼銀色の瞳が闇の奥を見据える。


「本体は、さらに深い場所にいる。」


「第一世界が滅んだ、その日からずっと。」


重苦しい沈黙が流れる。


シオンは改めて闇を見つめた。


信じられなかった。


これほどの圧力。


これほどの絶望。


それが、本体ではない。


その事実だけで背筋が凍る。


その時だった。


赤黒い闇の奥で、何かが脈打つ。


ドクン――。


巨大な鼓動。


その一拍だけで、世界の記録庫全体が激しく震えた。


第一世界の光が一瞬弱まる。


周囲に浮かぶ無数の世界も、次々と色を失っていく。


まるで生命そのものを吸い取られているようだった。


「まずい!」


白銀の観測者が地を蹴る。


蒼銀色の光が一直線に闇へ走る。


その瞬間。


闇の中から、無数の腕が現れた。


黒い腕。


異形の腕。


人の形を残しているようで、どこか根本的に違う。


一本一本が世界を握り潰せるほど巨大で、不気味に蠢いていた。


「……何だ、あれは!」


シオンが思わず叫ぶ。


白銀の観測者は答えない。


蒼銀色の剣を振り抜く。


閃光。


世界そのものを断ち切るような一撃が、黒い腕を次々と切り裂いた。


腕は四散する。


砕け散る。


――そう見えた。


だが。


次の瞬間には、何事もなかったかのように元へ戻っていた。


「再生した!?」


シオンが息を呑む。


白銀の観測者が鋭く叫ぶ。


「違う!」


その声には焦りが混じっていた。


「あれは最初から壊れていない!」


理解が追いつかない。


確かに斬った。


確かに消えた。


なのに、壊れていない。


白銀の観測者は低く告げる。


「存在する法則そのものが違う。」


「破壊という概念が通用しない。」


その言葉に、シオンの背筋を冷たいものが走った。


常識では勝てない。


剣技でも。


魔法でも。


力でもない。


世界の理そのものが違う相手だった。


その瞬間。


一本の黒い腕が、一直線にシオンへ伸びる。


速い。


目で追うことすらできない。


避けられない。


そう思った瞬間――。


ドォォォォォォォォォォォォォォン!!


蒼黒い閃光が炸裂した。


黒星晶。


シオンの胸から溢れた黒き輝きが、黒い腕を正面から弾き飛ばす。


赤黒い闇が、大きく揺らぐ。


初めてだった。


黒い腕が、自ら後退したのは。


白銀の観測者の瞳が大きく見開かれる。


「……やはり。」


「何なんだ!」


シオンが叫ぶ。


白銀の観測者は静かに振り返る。


その瞳には、確信が宿っていた。


「黒星王だけだ。」


静かな声だった。


しかし、その一言には絶対の重みがあった。


「虚無へ干渉できるのは。」


シオンは言葉を失う。


黒星王。


第一世界最後の願い。


未来を諦めなかった人々の祈り。


その力だけが。


虚無という存在へ届く。


その事実を理解した瞬間だった。


闇の最奥。


封印の中心から、低い声が響く。


『見つけた。』


世界が凍る。


無数の世界が一斉に震えた。


『やはり、お前だった。』


シオンの胸の黒星晶が激しく鼓動する。


ドクン。


ドクン。


ドクン。


まるで、その声へ応えるように。


『最後の継承者。』


闇が蠢く。


封印が悲鳴を上げる。


第一世界そのものが軋み始めた。


白銀の観測者が蒼銀の剣を構える。


シオンも無言で剣を握る。


張り詰めた静寂。


やがて。


封印の中心に、一つの人影がゆっくりと浮かび上がる。


神ではない。


魔王でもない。


その姿は――。


人間だった。


黒髪。


赤黒い瞳。


整った顔立ち。


そして。


シオンによく似た面影。


「……なっ。」


シオンの瞳が大きく揺れる。


白銀の観測者の表情も、わずかに強張った。


封印の奥から現れたその存在は、静かに微笑む。


長い眠りから目覚めた者のように。


懐かしい友へ語り掛けるように。


そして。


数万年という時を越えて、ゆっくりと口を開いた。


「――久しぶりだな。」


その声は。


驚くほど自然に。


驚くほど鮮明に。


シオン自身の声と、寸分違わず同じだった。

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