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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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第一世界の亡霊

視界が、ゆっくりと白く染まっていく。


王都も。


仲間たちも。


虚無の観測者も。


すべてが霞の向こうへ溶けるように遠ざかっていく。


深い海へ沈んでいくような浮遊感。


身体の感覚は失われ、意識だけがどこか遠い場所へ引き寄せられていく。


懐かしい。


けれど、決して思い出せない場所へ。


――気が付くと。


シオンは一面の草原に立っていた。


頬を撫でる穏やかな風。


澄み切った青空。


ゆっくりと流れる白い雲。


暖かな陽射しが大地を優しく照らしている。


耳を澄ませば、小鳥のさえずりが聞こえた。


戦争の気配はない。


管理者も。


星喰いも。


終末も存在しない。


そこには、ただ穏やかな日常だけがあった。


あまりにも平和だった。


シオンは静かに周囲を見渡す。


遠くには美しい街並みが広がっている。


市場では人々が笑い合い。


商人たちが元気な声を張り上げ。


子どもたちは追いかけっこをしながら駆け回っている。


誰も怯えていない。


誰も明日を恐れていない。


それは、今の世界ではもう失われてしまった光景だった。


「……ここが。」


思わず声が漏れる。


「第一世界……。」


その言葉が風へ溶けた瞬間だった。


背後から、軽い足音が聞こえた。


シオンは振り返る。


そこに立っていたのは、一人の少年だった。


黒髪。


蒼い瞳。


年齢は十六歳ほど。


自分と同じくらい。


顔立ちも、どこか似ている。


だが、別人だった。


少年は不思議そうに首を傾げる。


「……誰?」


警戒心のない、素直な声だった。


シオンは答えられない。


それは、自分自身が知りたかったことでもあった。


この少年は誰なのか。


なぜ、自分によく似ているのか。


少年は困ったように笑う。


「迷子?」


その一言に、シオンは思わず苦笑した。


「……そんなところかもしれない。」


少年は安心したように微笑む。


その笑顔は、どこまでも無垢だった。


疑うことを知らない。


未来を信じて疑わない瞳。


その笑顔を見た瞬間。


シオンの胸が締め付けられる。


理由は分からない。


それでも。


この笑顔を、自分は知っている。


忘れてしまった大切な記憶が、胸の奥で静かに疼いた。


少年が尋ねる。


「君、名前は?」


「……シオン。」


そう答えると。


少年は驚いたように目を丸くした。


「同じだ。」


「……え?」


「僕もシオンっていうんだ。」


世界から音が消えた。


風が止まる。


鳥のさえずりも。


子どもたちの笑い声も。


すべてが静寂へ沈んでいく。


二人のシオンは、ただ互いを見つめ合った。


そして。


現代のシオンは理解する。


この少年こそが――。


第一世界のシオン。


黒星王という存在が生まれる以前。


観測者も。


管理者も。


まだ存在しなかった時代。


すべての始まりとなった少年。


「……まさか。」


小さく呟いた、その瞬間だった。


世界が震える。


遠くの空が、ゆっくりと黒く染まり始める。


街のざわめきが広がる。


人々の悲鳴が響き渡る。


鳥たちが一斉に空へ飛び立った。


さっきまで穏やかだった世界から、一瞬で色が消えていく。


少年シオンも空を見上げる。


その顔から笑顔が消えた。


「……まただ。」


震える声。


「また……来た。」


現代のシオンも振り返る。


そして息を呑んだ。


空が割れていた。


王都で見た裂け目とは比べものにならない。


世界そのものを引き裂くほど巨大な亀裂。


その向こう側。


赤黒い巨大な瞳が、静かにこちらを見つめていた。


――虚無の観測者。


第一世界を滅ぼした災厄。


ゆっくりと、その瞳が開く。


それだけだった。


何もしていない。


何も放っていない。


ただ、見つめているだけ。


それだけで。


山々が崩れ始める。


海が荒れ狂う。


大地が裂ける。


空が軋み。


世界そのものが悲鳴を上げる。


現代のシオンは、初めて本当の恐怖を知った。


管理者。


星喰い。


終焉を告げる者。


これまで幾度も死線を越えてきた。


だが。


目の前の存在は根本から違う。


敵ではない。


災害でもない。


まるで。


世界そのものが敵意を持って動き出したかのようだった。


少年シオンは拳を強く握り締める。


悔しそうに。


悲しそうに。


滲む涙をこらえながら空を見上げていた。


「……また守れない。」


震える声が風に消える。


現代のシオンは振り返る。


少年の瞳から、一筋の涙が零れ落ちていた。


「みんなを守りたいのに……。」


「誰も傷付いてほしくないのに……。」


「どうして……終わるんだ。」


涙が大地へ落ちる。


その一滴が草原へ触れた瞬間。


ドクン――。


シオンの胸に宿る黒星晶が、激しく鼓動した。


封印されていた記憶。


忘却された歴史。


第一世界の真実。


すべてが揺らぎ始める。


その時。


虚無の観測者が静かに口を開いた。


『思い出せ。』


世界が震える。


『お前は始まりを知っている。』


『お前は終わりを知っている。』


赤黒い瞳が、ゆっくりと細められる。


そして。


その視線は真っ直ぐ現代のシオンを射抜いた。


『黒星王。』


底知れぬ闇を宿した声が響く。


まるで、すべてを知る者が真実を語るように。


『真実を見せてやろう。』


その宣告と同時に。


第一世界の空が、轟音とともに完全に崩壊した。


青空は闇へ飲み込まれ。


光は失われ。


世界そのものが終焉へ沈んでいく。


そしてシオンは。


抗うこともできないまま。


第一世界滅亡の日へと、その意識を引きずり込まれていった。

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