目覚める仲間達
王都セレスティア。
静まり返った夜空を、一筋の紅い閃光が駆け抜けた。
蒼黒い光。
蒼銀色の光。
そして、新たに生まれた紅蓮の輝き。
三つの光が夜空を彩り、王都全体を照らし出す。
王城の塔が大きく震えた。
広場の人々は息を呑み、一斉に空を見上げる。
管理者軍団でさえ、その一瞬だけ動きを止めた。
誰もが、その新たな光の正体を見極めようとしていた。
⸻
「……この気配。」
ルナリアが小さく呟く。
シオンも静かに目を細めた。
忘れるはずがない。
幾度となく背中を預け合い、命を懸けて戦ってきた仲間。
誰よりも真っ直ぐで。
誰よりも不器用で。
剣だけは誰にも負けなかった少女。
⸻
ドォォォォォォォォォォォォォン――!!
王城の塔を突き破るように、紅い光が夜空へ躍り出る。
燃え盛る炎。
空気を切り裂く圧倒的な速度。
紅蓮の魔力を纏い、その中心に立つ一人の少女。
――アリア・ナイトシェイド。
⸻
赤く長い髪が夜風になびく。
黄金の瞳は、蒼黒い光の中に立つ少年だけを映していた。
アリアの身体が震える。
恐怖ではない。
怒りでもない。
魂そのものが震えていた。
⸻
三年前。
彼女は忘れてしまった。
名前も。
顔も。
存在そのものも。
それでも胸の奥には、消えることのない空白だけが残っていた。
何かが足りない。
誰かがいない。
理由も分からない喪失感だけが、ずっと心を締め付けていた。
そして今。
その欠けていた最後の一片が、音を立てて埋まっていく。
「……馬鹿。」
涙が頬を伝う。
「本当に……馬鹿だ。」
怒り。
安堵。
悲しみ。
嬉しさ。
三年間押し殺してきた感情が、一度に溢れ出した。
⸻
シオンは困ったように笑う。
「……久しぶりだな。」
その言葉を聞いた瞬間。
アリアは一直線に飛び出した。
一瞬で距離を詰める。
シオンは反射的に身構えた。
しかし。
飛んできたのは剣ではなく――。
ゴッ!!
鈍い音が広場に響く。
アリアの拳が見事にシオンの額へ炸裂した。
周囲の人々が一斉に固まる。
ルナリアも思わず目を丸くした。
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「いっっ……!?」
シオンは額を押さえてしゃがみ込む。
アリアは涙を浮かべたまま怒鳴った。
「この大馬鹿ぁーーー!!」
王都中へ響き渡る怒声。
「どれだけ心配したと思ってるのよ!!」
「いや、その……。」
「三年よ! 三年!!」
「……ごもっともです。」
「謝って済むと思ってるの!?」
「思ってません。」
「当然よ!!」
シオンは素直に頭を下げるしかなかった。
⸻
その光景を見て。
ルナリアが思わず吹き出した。
緊張がほどける。
シオンも苦笑する。
これだ。
何も変わっていない。
旅をしていた頃と同じ空気。
同じ仲間。
同じ温かさ。
ようやく帰ってきたのだと、胸の奥から実感が湧き上がる。
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アリアはゆっくり顔を伏せる。
肩が小さく震える。
やがて、小さな声で呟いた。
「……生きてて、よかった。」
それだけだった。
たった一言。
その言葉に、三年間の想いがすべて詰まっていた。
シオンの表情が優しく緩む。
「……悪い。」
「ほんとよ。」
涙を拭いながら、アリアはまっすぐ見つめる。
「もう二度と勝手に消えないで。」
シオンは少しだけ考え、苦笑した。
「努力する。」
「違う。」
アリアは即座に首を振る。
「努力じゃない。」
一歩近付き、真っ直ぐ瞳を見つめる。
「約束。」
少しだけ沈黙が流れる。
やがてシオンは静かに頷いた。
「……分かった。」
その一言だけで十分だった。
アリアはようやく安心したように、小さく笑った。
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その時。
王都の北から、新たな魔力が立ち上る。
今度は白銀。
夜空を真っ直ぐ貫く、一筋の輝き。
騎士の剣のように迷いのない光。
シオンの瞳が揺れる。
「……まさか。」
ルナリアも振り返る。
アリアは微笑んだ。
「来たみたいね。」
⸻
王都北区。
王国騎士団訓練場。
一人の青年が静かに膝をついていた。
白銀の髪。
蒼い瞳。
整った騎士服。
胸には誇り高きアストレア王家の紋章。
レオニクス・アストレア。
彼の頭の中へ、膨大な記憶が流れ込んでいた。
旅。
戦い。
仲間。
笑い合った日々。
そして。
一人の少年。
『また無茶したな。』
『お前もだろ。』
『……否定できん。』
懐かしい声。
懐かしい笑顔。
忘れたはずの存在。
そのすべてが鮮明に蘇る。
⸻
レオニクスはゆっくり立ち上がる。
蒼い瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
「……そうか。」
静かな声。
けれど、その胸は熱く燃えていた。
「帰ってきたのか。」
次の瞬間。
ドォォォォォォォォォォン――!!
白銀の魔力が爆発する。
王都北区全体が激しく震えた。
騎士たちは驚愕し、思わず空を見上げる。
天を貫く白銀の光柱。
それは、王国最強の騎士が再び立ち上がった証だった。
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そして、その共鳴は王都全域へ広がっていく。
眠っていた仲間たちの魂が次々と目を覚ます。
エリナ。
セラフィナ。
ガルド。
リヴェル。
失われていた記憶。
共に笑い、共に戦った日々。
絆が一人、また一人と蘇っていく。
世界は再び繋がり始めていた。
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その様子を見つめる管理者たちの演算が乱れる。
『異常発生。』
『黒星王記録拡散。』
『英雄因子覚醒確認。』
『世界修正失敗率上昇。』
警告が止まらない。
⸻
《アーカイヴ・コア》。
純白の空間で、アーカイヴは静かに目を閉じる。
銀色の瞳に映る演算結果は、次々と崩壊していた。
世界が思い出している。
英雄を。
仲間たちを。
消された歴史を。
自分が何億年かけても消し去れなかった、人々の想いを。
⸻
その時だった。
夜空を覆う巨大な白い法陣のさらに奥。
深い闇の向こうで。
何かが、ゆっくりと動いた。
AE軍団ではない。
終末機構でもない。
もっと古く。
もっと巨大で。
世界そのものより以前から存在していたような、圧倒的な気配。
シオンの表情が変わる。
ルナリアも気付く。
アリアは静かに剣へ手を掛けた。
再会は果たした。
仲間も目覚め始めた。
だが、《世界終了命令》はまだ終わっていない。
本当の戦いは、ここから始まる。
⸻
夜空の彼方。
白い法陣の最奥で。
世界を覆い尽くすほど巨大な影が、静かに――その瞳を開こうとしていた。




