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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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13/51

「追放者たち」

シャドウ部隊との戦闘は夜明け近くまで続いた。


森のあちこちで刃がぶつかり合い、炎が木々を照らし、風を裂く矢が飛び交った。


ガルドの炎。


エリナの風矢。


ルナリアの結界。


そして――アリアの裏切り。


その全てが戦場を混乱へ叩き込んだ。


レオン率いるシャドウ部隊も決して弱くはなかった。


だが、隊長であるアリアが敵に回ったことで統率は崩れた。


その隙を突き、シオン達は森の奥へ撤退することに成功した。


勝利ではない。


ただ生き延びただけだ。


それでも今は、それで十分だった。


夜。


深い森の中で焚き火が静かに揺れていた。


赤い火の粉が夜風に舞い、暗闇へ溶けていく。


シオン達は追手を警戒しながら、束の間の休息を取っていた。


教団。


シャドウ。


七星将。


敵は日に日に増えていく。


数日前までスラムで生きていた少年が、今では世界最大の組織から追われている。


笑える話だった。


だが現実だった。


そして今、その輪の中には新たな仲間がいる。


アリア・ナイトシェイド。


教団最強暗殺部隊シャドウ隊長。


つい昨日まで敵だった少女。


彼女は焚き火から離れた木の下で静かに座っていた。


誰とも話さない。


誰とも目を合わせない。


まるで自分だけ別世界にいるようだった。


「気になるなら話しかければ?」


ルナリアが小さく言った。


「別に」


「嘘」


「嘘じゃねぇ」


「めちゃくちゃ見てる」


エリナまで加わる。


「見てねぇ」


「見てる」


「見てない」


「見てる」


「お前ら子供か」


ガルドが呆れたように笑った。


結局、シオンは立ち上がる。


アリアの元へ歩いていった。


近付くと、紫の瞳が静かにこちらを見る。


「何だ」


「別に」


シオンも適当に返した。


そして少し離れて腰を下ろす。


沈黙。


風が吹く。


焚き火の音だけが遠く聞こえる。


やがてアリアが呟いた。


「どうして助けたの」


「何が?」


「私を」


シオンは少し考えた。


そして肩をすくめる。


「助けたいと思ったから」


アリアは目を伏せた。


理解できない。


彼女はずっと命令で生きてきた。


利用され。


鍛えられ。


人を殺し。


感情を消されてきた。


見返りのない善意など知らない。


「変な奴」


小さな声だった。


その瞬間だった。


ドクン。


黒星晶が脈動した。


視界が揺らぐ。


頭の奥に映像が流れ込む。


暗い地下施設。


冷たい石床。


鎖。


泣き声。


血の臭い。


幼い子供達。


そして。


膝を抱えて震える一人の少女。


幼いアリアだった。


教団兵の声が響く。


『生き残った者だけを育てる』


『弱者は不要』


子供達は互いに刃を持たされる。


殺さなければ死ぬ。


生きるために奪う。


そんな地獄だった。


映像が消える。


シオンは息を呑んだ。


「アリア……」


彼女も理解していた。


見られたことを。


「見るな」


震える声。


初めてだった。


アリアが感情を隠せなかったのは。


「私は」


拳を握る。


「友達を殺した」


静かな告白。


「家族も」


「全部」


「生き残るために」


焚き火だけが揺れている。


「だから私は」


彼女は俯いた。


「幸せになっちゃいけない」


即座にシオンは答えた。


「そんなことない」


アリアが顔を上げる。


蒼い瞳と紫の瞳がぶつかった。


「過去は変わらない」


シオンは静かに言う。


「でも未来は選べる」


沈黙。


アリアは何も言えなかった。


胸が痛い。


苦しい。


涙が出そうになる。


忘れたはずなのに。


「俺も同じだ」


シオンは続けた。


「家族を守れなかった」


「何もできなかった」


「ずっと後悔してる」


夜空を見上げる。


「それでも生きてるなら」


「何かを選ぶことくらいできるだろ」


優しい言葉ではなかった。


慰めでもない。


ただ真っ直ぐだった。


だからこそアリアの胸に刺さった。


その時だった。


ゴォォォォォン――


遠くで鐘の音が響く。


低く深い音が森を震わせる。


ガルドが立ち上がった。


「見えたぞ」


全員が顔を上げる。


森の向こう。


夜の闇を貫く巨大な光。


天を支えるような大樹。


幹は都市ほど太く、枝は空を覆い、葉は星のように輝いている。


世界樹。


そしてその周囲に築かれた巨大都市。


世界樹都市アストレア。


知識の都。


学術の中心地。


シオン達が目指していた場所だった。


ようやく辿り着いた。


だがその頃。


アストレア最上層。


世界樹を見下ろす研究塔。


一人の男が夜空を見つめていた。


銀髪。


白衣。


鋭い蒼眼。


レオニクス・ヴァルハルト。


アストレア最高学者。


彼の背後では古代観測装置が青白く光っている。


数千年沈黙していた装置。


観測者因子。


黒星晶。


創世記録。


その全てが一人の少年を示していた。


レオニクスは静かに笑う。


「ようやく来たか」


視線は森の彼方。


シオン達がいる方向へ向けられていた。


「シオン・アルヴィス」


「最後の観測者」


風が吹く。


世界樹の葉が揺れる。


少年はまだ知らない。


この都市で待つ真実を。


自らの運命を。


そして世界の根幹に触れることになる未来を。

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