表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/161

「追放者たち」

シャドウ部隊との戦闘は夜明け近くまで続いた。


森のあちこちで刃がぶつかり合い、炎が木々を照らし、風を裂く矢が飛び交った。


ガルドの炎。


エリナの風矢。


ルナリアの結界。


そして――アリアの裏切り。


その全てが戦場を混乱へ叩き込んだ。


レオン率いるシャドウ部隊も決して弱くはなかった。


だが、隊長であるアリアが敵に回ったことで統率は崩れた。


その隙を突き、シオン達は森の奥へ撤退することに成功した。


勝利ではない。


ただ生き延びただけだ。


それでも今は、それで十分だった。


夜。


深い森の中で焚き火が静かに揺れていた。


赤い火の粉が夜風に舞い、暗闇へ溶けていく。


シオン達は追手を警戒しながら、束の間の休息を取っていた。


教団。


シャドウ。


七星将。


敵は日に日に増えていく。


数日前までスラムで生きていた少年が、今では世界最大の組織から追われている。


笑える話だった。


だが現実だった。


そして今、その輪の中には新たな仲間がいる。


アリア・ナイトシェイド。


教団最強暗殺部隊シャドウ隊長。


つい昨日まで敵だった少女。


彼女は焚き火から離れた木の下で静かに座っていた。


誰とも話さない。


誰とも目を合わせない。


まるで自分だけ別世界にいるようだった。


「気になるなら話しかければ?」


ルナリアが小さく言った。


「別に」


「嘘」


「嘘じゃねぇ」


「めちゃくちゃ見てる」


エリナまで加わる。


「見てねぇ」


「見てる」


「見てない」


「見てる」


「お前ら子供か」


ガルドが呆れたように笑った。


結局、シオンは立ち上がる。


アリアの元へ歩いていった。


近付くと、紫の瞳が静かにこちらを見る。


「何だ」


「別に」


シオンも適当に返した。


そして少し離れて腰を下ろす。


沈黙。


風が吹く。


焚き火の音だけが遠く聞こえる。


やがてアリアが呟いた。


「どうして助けたの」


「何が?」


「私を」


シオンは少し考えた。


そして肩をすくめる。


「助けたいと思ったから」


アリアは目を伏せた。


理解できない。


彼女はずっと命令で生きてきた。


利用され。


鍛えられ。


人を殺し。


感情を消されてきた。


見返りのない善意など知らない。


「変な奴」


小さな声だった。


その瞬間だった。


ドクン。


黒星晶が脈動した。


視界が揺らぐ。


頭の奥に映像が流れ込む。


暗い地下施設。


冷たい石床。


鎖。


泣き声。


血の臭い。


幼い子供達。


そして。


膝を抱えて震える一人の少女。


幼いアリアだった。


教団兵の声が響く。


『生き残った者だけを育てる』


『弱者は不要』


子供達は互いに刃を持たされる。


殺さなければ死ぬ。


生きるために奪う。


そんな地獄だった。


映像が消える。


シオンは息を呑んだ。


「アリア……」


彼女も理解していた。


見られたことを。


「見るな」


震える声。


初めてだった。


アリアが感情を隠せなかったのは。


「私は」


拳を握る。


「友達を殺した」


静かな告白。


「家族も」


「全部」


「生き残るために」


焚き火だけが揺れている。


「だから私は」


彼女は俯いた。


「幸せになっちゃいけない」


即座にシオンは答えた。


「そんなことない」


アリアが顔を上げる。


蒼い瞳と紫の瞳がぶつかった。


「過去は変わらない」


シオンは静かに言う。


「でも未来は選べる」


沈黙。


アリアは何も言えなかった。


胸が痛い。


苦しい。


涙が出そうになる。


忘れたはずなのに。


「俺も同じだ」


シオンは続けた。


「家族を守れなかった」


「何もできなかった」


「ずっと後悔してる」


夜空を見上げる。


「それでも生きてるなら」


「何かを選ぶことくらいできるだろ」


優しい言葉ではなかった。


慰めでもない。


ただ真っ直ぐだった。


だからこそアリアの胸に刺さった。


その時だった。


ゴォォォォォン――


遠くで鐘の音が響く。


低く深い音が森を震わせる。


ガルドが立ち上がった。


「見えたぞ」


全員が顔を上げる。


森の向こう。


夜の闇を貫く巨大な光。


天を支えるような大樹。


幹は都市ほど太く、枝は空を覆い、葉は星のように輝いている。


世界樹。


そしてその周囲に築かれた巨大都市。


世界樹都市アストレア。


知識の都。


学術の中心地。


シオン達が目指していた場所だった。


ようやく辿り着いた。


だがその頃。


アストレア最上層。


世界樹を見下ろす研究塔。


一人の男が夜空を見つめていた。


銀髪。


白衣。


鋭い蒼眼。


レオニクス・ヴァルハルト。


アストレア最高学者。


彼の背後では古代観測装置が青白く光っている。


数千年沈黙していた装置。


観測者因子。


黒星晶。


創世記録。


その全てが一人の少年を示していた。


レオニクスは静かに笑う。


「ようやく来たか」


視線は森の彼方。


シオン達がいる方向へ向けられていた。


「シオン・アルヴィス」


「最後の観測者」


風が吹く。


世界樹の葉が揺れる。


少年はまだ知らない。


この都市で待つ真実を。


自らの運命を。


そして世界の根幹に触れることになる未来を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ