表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/92

「裏切りの刃」

沈黙。


誰も動かなかった。


いや、正確には動けなかった。


アリア・ナイトシェイド。


エクリプス教団最強暗殺部隊シャドウ隊長。


感情を捨て、命令だけを生きる理由としてきた暗殺者。


その彼女が、直属の部下たちに向かって放った言葉。


「断る」


たった一言。


だが、それは彼女が歩んできた人生そのものを否定する宣言だった。


森の空気が凍り付く。


先頭に立つ仮面の男が静かに目を細めた。


「……再確認します」


感情のない声。


訓練された暗殺者特有の無機質な響き。


「対象の排除を実行してください」


アリアは答えない。


ただ静かに腰の短剣へ手を添える。


それだけで十分だった。


男は小さく頷く。


「了解しました」


一拍の沈黙。


そして告げる。


「シャドウ隊長、アリア・ナイトシェイド」


「教団規律第十三条違反」


「反逆行為を確認」


風が吹いた。


木々が揺れる。


葉擦れの音がやけに大きく聞こえた。


「これより――」


男の声がさらに冷たくなる。


「粛清対象へ指定します」


次の瞬間だった。


黒い影が一斉に消えた。


シュンッ――!!


森そのものが動いたかのようだった。


木々の間を走る無数の残像。


三十を超える暗殺者たちが四方八方から襲い掛かる。


「来るぞ!!」


ガルドの怒号が響いた。


戦闘が始まる。


金属音が森を切り裂く。


最初に動いたのはアリアだった。


二本の短剣が閃く。


一歩踏み出す。


ただそれだけ。


だが次の瞬間、三人の暗殺者が血飛沫を上げて地面へ崩れ落ちた。


速い。


シオンですら何が起きたのか見えなかった。


まるで影が斬ったようだった。


「化け物かよ……」


思わず呟く。


しかし感心している暇はない。


敵の数が多すぎる。


ガルドが炎を纏った大剣を振り抜いた。


「吹き飛べッ!!」


轟炎が森を駆け抜ける。


爆炎が木々を照らし、数人の暗殺者をまとめて吹き飛ばした。


その隙にエリナが矢を放つ。


風を纏った矢が正確に敵の足元を射抜き、動きを封じていく。


「足止めなら任せて!」


ルナリアも両手を広げた。


銀色の光が広がる。


月光の結界。


飛来する短剣が次々と弾かれた。


「みんな下がって!」


そしてシオンも駆け出した。


右腕の黒星晶が脈動する。


ドクン。


ドクン。


黒い光が拳へ集まる。


「うおおおおおっ!!」


拳が炸裂する。


衝撃波が森を揺らし、一人の暗殺者を木々の向こうへ吹き飛ばした。


だが、その瞬間だった。


森の奥から異様な殺気が流れ込む。


空気が変わる。


アリアの表情が初めて明確に変化した。


「……まずい」


その声には焦りがあった。


シオンは初めて聞いた。


アリアが恐怖に近い感情を滲ませるのを。


木々の奥から一人の男が現れる。


長身。


白髪。


右目を覆う黒い眼帯。


漆黒の軍服。


冷たい笑み。


その存在だけで周囲の暗殺者たちが道を開ける。


シャドウ副隊長。


レオン・ヴァイス。


アリアに次ぐ実力者。


いや――。


純粋な暗殺技術だけなら互角とも言われる男だった。


レオンは静かに笑う。


「残念ですよ、隊長」


温度のない声。


「あなたは完璧だった」


「感情さえ持たなければ」


アリアは短剣を構える。


紫の瞳が鋭く細まった。


「黙れ」


レオンは肩を竦める。


「その少年ですか?」


視線がシオンへ向く。


「あなたを壊した原因は」


森が静まり返る。


アリアの瞳に怒りが宿る。


ほんの僅か。


だが確かに。


今まで失われていたはずの感情。


レオンは小さくため息をついた。


「やはり処分が必要ですね」


消える。


一瞬だった。


次に姿を現した時、レオンはシオンの背後にいた。


「っ!?」


速い。


アリア以上かもしれない。


刃が首筋へ迫る。


間に合わない。


そう思った瞬間だった。


キィィィィィン!!


火花が散る。


レオンの刃を受け止めたのはアリアだった。


二本の短剣が交差する。


「触るな」


低い声だった。


レオンが笑う。


「なるほど」


「本当に守るんですね」


その言葉を聞いた瞬間。


アリアの中で何かが壊れた。


いや――


何かが戻った。


暗い部屋。


冷たい鎖。


泣いている少女。


誰にも必要とされなかった過去。


差し伸べられた手。


優しい声。


名前を呼んでくれた誰か。


忘れたはずだった。


捨てたはずだった。


だが確かに存在していた。


彼女は震える息を吐いた。


そして静かに告げる。


「私は――」


その声は小さい。


だが揺るがない。


「もう」


短剣を握る力が強くなる。


「教団の道具じゃない」


森が静まり返った。


レオンの笑みが消える。


そして冷たく宣告する。


「確認」


「アリア・ナイトシェイド」


「反逆者認定」


「抹殺命令発令」


その瞬間。


教団最強の暗殺者は世界中の教団勢力から狙われる存在となった。


逃げ場はない。


戻る場所もない。


全てを失った。


だが。


アリアは静かに笑った。


どこか晴れやかな顔だった。


長い牢獄から解放された人間のように。


そして彼女は歩く。


シオンの隣へ。


初めて自分の意思で。


初めて誰かを守るために。


シオンは少し驚きながら彼女を見る。


アリアは小さく呟いた。


「……一緒に逃げる?」


その言葉にシオンは吹き出した。


「今さらだろ」


ガルドが笑う。


エリナが呆れる。


ルナリアも微笑む。


そして。


アリアもほんの少しだけ笑った。


それは彼女が初めて見せた、本当の笑顔だった。


しかし同時に。


森のさらに奥で新たな気配が動き出していた。


七星将。


エクリプス教団。


そして世界を覆う星喰いの影。


アリアの裏切りは終わりではない。


むしろ始まりだった。


シオンたちの旅は新たな局面へ突入する。


追われる者たち。


失われた記憶。


迫る教団の本隊。


そして世界樹都市アストレア。


運命の歯車はさらに大きく回り始めていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ