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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

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12/201

「裏切りの刃」

沈黙。


誰も動かなかった。


いや、正確には動けなかった。


アリア・ナイトシェイド。


エクリプス教団最強暗殺部隊シャドウ隊長。


感情を捨て、命令だけを生きる理由としてきた暗殺者。


その彼女が、直属の部下たちに向かって放った言葉。


「断る」


たった一言。


だが、それは彼女が歩んできた人生そのものを否定する宣言だった。


森の空気が凍り付く。


先頭に立つ仮面の男が静かに目を細めた。


「……再確認します」


感情のない声。


訓練された暗殺者特有の無機質な響き。


「対象の排除を実行してください」


アリアは答えない。


ただ静かに腰の短剣へ手を添える。


それだけで十分だった。


男は小さく頷く。


「了解しました」


一拍の沈黙。


そして告げる。


「シャドウ隊長、アリア・ナイトシェイド」


「教団規律第十三条違反」


「反逆行為を確認」


風が吹いた。


木々が揺れる。


葉擦れの音がやけに大きく聞こえた。


「これより――」


男の声がさらに冷たくなる。


「粛清対象へ指定します」


次の瞬間だった。


黒い影が一斉に消えた。


シュンッ――!!


森そのものが動いたかのようだった。


木々の間を走る無数の残像。


三十を超える暗殺者たちが四方八方から襲い掛かる。


「来るぞ!!」


ガルドの怒号が響いた。


戦闘が始まる。


金属音が森を切り裂く。


最初に動いたのはアリアだった。


二本の短剣が閃く。


一歩踏み出す。


ただそれだけ。


だが次の瞬間、三人の暗殺者が血飛沫を上げて地面へ崩れ落ちた。


速い。


シオンですら何が起きたのか見えなかった。


まるで影が斬ったようだった。


「化け物かよ……」


思わず呟く。


しかし感心している暇はない。


敵の数が多すぎる。


ガルドが炎を纏った大剣を振り抜いた。


「吹き飛べッ!!」


轟炎が森を駆け抜ける。


爆炎が木々を照らし、数人の暗殺者をまとめて吹き飛ばした。


その隙にエリナが矢を放つ。


風を纏った矢が正確に敵の足元を射抜き、動きを封じていく。


「足止めなら任せて!」


ルナリアも両手を広げた。


銀色の光が広がる。


月光の結界。


飛来する短剣が次々と弾かれた。


「みんな下がって!」


そしてシオンも駆け出した。


右腕の黒星晶が脈動する。


ドクン。


ドクン。


黒い光が拳へ集まる。


「うおおおおおっ!!」


拳が炸裂する。


衝撃波が森を揺らし、一人の暗殺者を木々の向こうへ吹き飛ばした。


だが、その瞬間だった。


森の奥から異様な殺気が流れ込む。


空気が変わる。


アリアの表情が初めて明確に変化した。


「……まずい」


その声には焦りがあった。


シオンは初めて聞いた。


アリアが恐怖に近い感情を滲ませるのを。


木々の奥から一人の男が現れる。


長身。


白髪。


右目を覆う黒い眼帯。


漆黒の軍服。


冷たい笑み。


その存在だけで周囲の暗殺者たちが道を開ける。


シャドウ副隊長。


レオン・ヴァイス。


アリアに次ぐ実力者。


いや――。


純粋な暗殺技術だけなら互角とも言われる男だった。


レオンは静かに笑う。


「残念ですよ、隊長」


温度のない声。


「あなたは完璧だった」


「感情さえ持たなければ」


アリアは短剣を構える。


紫の瞳が鋭く細まった。


「黙れ」


レオンは肩を竦める。


「その少年ですか?」


視線がシオンへ向く。


「あなたを壊した原因は」


森が静まり返る。


アリアの瞳に怒りが宿る。


ほんの僅か。


だが確かに。


今まで失われていたはずの感情。


レオンは小さくため息をついた。


「やはり処分が必要ですね」


消える。


一瞬だった。


次に姿を現した時、レオンはシオンの背後にいた。


「っ!?」


速い。


アリア以上かもしれない。


刃が首筋へ迫る。


間に合わない。


そう思った瞬間だった。


キィィィィィン!!


火花が散る。


レオンの刃を受け止めたのはアリアだった。


二本の短剣が交差する。


「触るな」


低い声だった。


レオンが笑う。


「なるほど」


「本当に守るんですね」


その言葉を聞いた瞬間。


アリアの中で何かが壊れた。


いや――


何かが戻った。


暗い部屋。


冷たい鎖。


泣いている少女。


誰にも必要とされなかった過去。


差し伸べられた手。


優しい声。


名前を呼んでくれた誰か。


忘れたはずだった。


捨てたはずだった。


だが確かに存在していた。


彼女は震える息を吐いた。


そして静かに告げる。


「私は――」


その声は小さい。


だが揺るがない。


「もう」


短剣を握る力が強くなる。


「教団の道具じゃない」


森が静まり返った。


レオンの笑みが消える。


そして冷たく宣告する。


「確認」


「アリア・ナイトシェイド」


「反逆者認定」


「抹殺命令発令」


その瞬間。


教団最強の暗殺者は世界中の教団勢力から狙われる存在となった。


逃げ場はない。


戻る場所もない。


全てを失った。


だが。


アリアは静かに笑った。


どこか晴れやかな顔だった。


長い牢獄から解放された人間のように。


そして彼女は歩く。


シオンの隣へ。


初めて自分の意思で。


初めて誰かを守るために。


シオンは少し驚きながら彼女を見る。


アリアは小さく呟いた。


「……一緒に逃げる?」


その言葉にシオンは吹き出した。


「今さらだろ」


ガルドが笑う。


エリナが呆れる。


ルナリアも微笑む。


そして。


アリアもほんの少しだけ笑った。


それは彼女が初めて見せた、本当の笑顔だった。


しかし同時に。


森のさらに奥で新たな気配が動き出していた。


七星将。


エクリプス教団。


そして世界を覆う星喰いの影。


アリアの裏切りは終わりではない。


むしろ始まりだった。


シオンたちの旅は新たな局面へ突入する。


追われる者たち。


失われた記憶。


迫る教団の本隊。


そして世界樹都市アストレア。


運命の歯車はさらに大きく回り始めていた――。

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