表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/67

「揺れる刃」

飛空艇《アルテミス号》の墜落から半日が過ぎていた。


シオンたちは墜落現場を離れ、深い森の奥へ身を隠していた。


頭上を覆う巨大な樹々は陽光を遮り、昼だというのに薄暗い。湿った土の匂いと、遠くで鳴く鳥の声だけが静かに響いている。


一見すれば平和な森だった。


だが、その静寂は不自然だった。


まるで森全体が息を潜め、何かを待っているようだった。


シオンは大樹にもたれながら小さく息を吐いた。


全身が痛む。


飛空艇墜落の衝撃は想像以上だった。


肩は重く、背中は軋み、腕を動かすだけでも鈍い痛みが走る。


ルナリアも肩に包帯を巻いていた。


エリナは足首を軽く捻っている。


まともに動けるのはガルドくらいだった。


そのガルドは平然と大剣の刃を磨いている。


シオンは半眼になった。


「お前、本当に人間か?」


ガルドは鼻で笑う。


「鍛え方が違う」


「それで済む問題じゃねぇだろ」


「済む」


「済まねぇよ」


即答だった。


思わずルナリアが吹き出す。


張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。


だが――。


ガサリ。


森の奥で枝が鳴った。


全員の表情が変わる。


シオンは即座に立ち上がった。


ルナリアも身構える。


エリナは弓を握り、ガルドは大剣を肩から下ろした。


静寂。


風すら止まったような感覚。


木々の隙間から現れた影を見た瞬間、シオンは目を細めた。


黒い外套。


漆黒の長髪。


紫の瞳。


アリア・ナイトシェイド。


シャドウ隊長。


エクリプス教団最強の暗殺者だった。


森の空気が一気に冷える。


昨夜の戦いが脳裏に蘇る。


シオンは一歩前へ出た。


「またお前か」


アリアは答えない。


ただ静かに立っている。


殺気はある。


だが昨夜のような鋭さがない。


まるで何かを迷っているようだった。


そして次の瞬間。


彼女は小さな袋を放った。


袋は地面に落ち、中から薬草が転がり出る。


全員が固まった。


数秒の沈黙。


シオンがようやく口を開く。


「……は?」


アリアは短く言った。


「治療用」


意味が分からなかった。


敵だ。


しかも暗殺者。


昨日まで殺そうとしていた相手が、今日は薬を届けに来た。


理解不能だった。


シオンは眉をひそめる。


「何のつもりだ」


アリアは答えない。


答えられなかった。


なぜ自分がここにいるのか。


なぜ薬を持ってきたのか。


本人にも分からなかった。


本来なら今この瞬間に全員を始末するべきだ。


それが任務。


それが使命。


それが生きる意味。


それなのに。


できなかった。


シオンを見るたび胸の奥が痛む。


忘れたはずの何かが疼く。


思い出せない。


だが確かに存在する。


アリアは視線を逸らした。


「お前を見ると……」


声が震える。


「思い出しそうになる」


ルナリアが反応した。


「記憶……?」


アリアは答えない。


だが、その表情は明らかに苦しんでいた。


シオンはそんな彼女を見つめていた。


そしてその瞬間。


胸の奥で黒星晶が脈動する。


ドクン――。


世界が揺らぐ。


視界が歪む。


景色が溶ける。


そして。


知らないはずの光景が流れ込んできた。


暗い部屋。


冷たい石床。


錆びた鎖。


幼い少女。


膝を抱え、震えている。


泣いている。


怯えている。


誰も助けてくれない。


誰も名前を呼ばない。


誰も必要としてくれない。


その少女の前に、一人の少年が現れた。


黒髪。


蒼い瞳。


少年は何も言わない。


ただ手を差し伸べる。


少女は涙を流しながらその手を握った。


『ありがとう』


その声だけが残った。


映像が途切れる。


シオンは息を呑んだ。


目の前のアリアも同じように目を見開いている。


彼女も見たのだ。


同じ記憶を。


同じ光景を。


そして理解してしまった。


記憶の中の少女はアリア。


そして。


その少女に手を差し伸べた少年は――。


シオンだった。


「何なの……」


アリアの声が震える。


感情を捨てたはずの暗殺者。


誰よりも冷酷であるはずの女。


その瞳が揺れていた。


消された記憶。


失われた過去。


そしてシオン。


全てが繋がりそうで繋がらない。


その時だった。


森全体を揺らす轟音が響いた。


ドォォォォォォン!!


爆発。


衝撃。


鳥たちが一斉に飛び立つ。


ガルドの顔色が変わった。


「来たか」


シオンも気付く。


無数の気配。


大量の殺気。


包囲されている。


木々の間から次々と現れる黒い影。


仮面。


短剣。


黒装束。


シャドウ部隊。


十。


二十。


三十。


いや、それ以上。


森全体が暗殺者で埋め尽くされていた。


その先頭に立つ男が前へ出る。


仮面の奥から冷たい声が響く。


「隊長」


アリアは振り向かない。


男は続けた。


「任務違反です」


森が静まり返る。


「対象の排除を確認できません」


「直ちに任務を遂行してください」


誰も動かない。


シオンも。


ルナリアも。


エリナも。


ガルドも。


全員がアリアを見ていた。


彼女が何を選ぶのか。


それを待っていた。


アリアは静かに振り返る。


シオンを見る。


ルナリアを見る。


エリナを見る。


ガルドを見る。


そしてシャドウ達を見る。


手が短剣の柄へ伸びる。


任務。


命令。


暗殺者としての人生。


全てがそこにある。


だが。


胸の奥に残った温もりが消えない。


暗闇の中で差し伸べられた手。


自分の名前を呼んでくれた誰か。


忘れてしまった大切な記憶。


もし今ここでシオンを殺せば。


二度と取り戻せない。


そんな確信があった。


長い沈黙。


風が吹く。


木々が揺れる。


そしてアリアは静かに口を開いた。


「断る」


その一言は森全体を凍り付かせた。


仮面の暗殺者たちが息を呑む。


ガルドも目を細める。


ルナリアは驚愕し。


シオンは黙ったまま彼女を見つめていた。


シャドウ隊長。


教団最強の暗殺者。


感情を捨てた処刑人。


その彼女が今、自ら命令に背いた。


もう後戻りはできない。


アリア・ナイトシェイドは、この瞬間――


初めて自分自身の意志で刃を選んだのだった。


そして森の奥で。


新たな殺気が目覚める。


教団は決して裏切りを許さない。


アリアが選んだ答えは、やがて彼女自身を追い詰めることになる。


シオンとアリア。


失われた記憶。


交差する運命。


そして迫り来る新たな敵。


全ては次なる戦いへと繋がっていく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ