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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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月の継承者

記憶の海は静かだった。


どこまでも広がる蒼白い海。


無数の記憶が光となって漂う世界。


その中心で、ルナリア・セレスは立ち尽くしていた。


空を見上げたまま。


頬を伝う涙も拭わずに。


蒼黒い流星。


シオン。


彼が帰ってきている。


それだけは確信できた。


胸の奥で鼓動が鳴る。


ドクン――


ドクン――


まるで誰かの心臓と繋がっているかのように。


「シオン……」


震える声。


今まで何度も呼んだ名前だった。


だが今は違う。


ようやく思い出した。


ようやく取り戻した。


自分が誰よりも大切にしていた名前を。


その瞬間だった。


ルナリアの身体を包む銀色の光が強くなる。


海全体が共鳴した。


無数の記憶が輝き始める。


クロノが目を見開く。


「これは……!」


光が天へ伸びる。


蒼白い海を貫き。


夜空の彼方へ。


まるで月そのものが目覚めたようだった。


ルナリアは苦しそうに胸を押さえる。


頭の中へ大量の記憶が流れ込んでくる。


忘れていたもの。


封印されていたもの。


世界が消したもの。


その全てが戻ってくる。



崩壊する空。


世界の終わり。


血に染まった大地。


シオンの背中。


泣きながら叫ぶ自分。


『生きて』


あの日の声。


『必ず帰る』


シオンの約束。


そして――


劇場版最終決戦。


世界再生の瞬間。


誰も知らない真実。


誰も見ていない最後。


そこにいたのはシオンだった。


世界を救うため。


仲間達を守るため。


未来を残すため。


彼は最後の選択をした。


ルナリアの瞳が大きく見開かれる。


「そんな……」


信じられなかった。


誰も死ななかったと思っていた。


世界は救われたと思っていた。


だが違った。


シオンだけが代償を払っていた。



世界から切り離される。


存在そのものを消される。


記録から消される。


歴史から消される。


誰にも覚えられなくなる。


それは死より残酷だった。


誰かの記憶の中で生き続けることすら許されない。


永遠の孤独。


永遠の観測。


永遠の放浪。


それが英雄の末路だった。


ルナリアの肩が震える。


涙が止まらない。


「どうして……」


掠れた声。


「どうして一人で……」


彼らしい。


あまりにも。


誰にも言わず。


誰にも頼らず。


最後まで皆を守ろうとした。


その優しさが苦しかった。


悔しかった。


ルナリアは唇を噛む。


血が滲むほど強く。


「馬鹿……」


涙が落ちる。


記憶の海へ波紋が広がる。


「本当に馬鹿……」


クロノは黙っていた。


何も言わない。


何も言えない。


知っていたからだ。


シオンが何を失ったのか。


どれほどの代償を支払ったのか。


そして。


それでも後悔していないことを。


ルナリアはゆっくり顔を上げる。


瞳が変わっていた。


銀色だった瞳。


そこへ蒼い輝きが混じっている。


蒼銀色。


月の継承者が完全覚醒した証。


クロノの表情が変わる。


「まさか……」


ルナリアの背後に巨大な月光が現れる。


銀色の翼。


無数の光粒。


海全体が共鳴する。


忘れられた記憶達が彼女へ集まり始める。


失われた歴史。


消された真実。


封印された世界。


その全てが彼女を認めていた。


クロノは静かに呟く。


「月の王……」


かつて世界再生を導いた力。


その正統継承者。


それが今。


完全に目覚めようとしていた。


ルナリアは拳を握る。


もう迷わない。


もう泣くだけでは終わらない。


もう待つだけでは終わらない。


シオンが戦った。


シオンが守った。


シオンが帰ろうとしている。


なら。


今度は自分が手を伸ばす番だった。


「絶対に」


静かな声。


だが決意は揺るがない。


「絶対に連れ戻す」


銀色の光が爆発する。


記憶の海が大きく揺れた。


同時に。


遠く離れた空の彼方。


蒼黒い流星が一際強く輝く。


まるで応えるように。


まるで約束するように。


クロノはその光を見上げた。


そして小さく笑う。


「やれやれ」


肩を竦める。


「世界で一番厄介な二人だな」


ルナリアは少しだけ笑った。


涙を流しながら。


それでも前を向いて。


シオンが帰ってくる。


今度こそ必ず。


そう信じて。

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