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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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再編集執行官

静寂。


それは不自然なほどの静寂だった。


観測者領域。


黒い星。


世界の壁。


つい先程まで響いていた轟音が嘘のように消えている。


誰も動かない。


いや――動けなかった。


世界の壁の奥。


深淵のさらに向こう。


そこから漏れ始めた気配が、全てを押し潰していた。


シオンは剣を握る。


本能が警告している。


危険。


今まで感じたことのない種類の危険。


だが。


それ以上に。


帰らなければならない理由があった。


「……ルナリア」


小さく呟く。


胸の奥が熱い。


彼女は待っている。


だから止まれない。


その時だった。


ゴォォォォォォォォォ……


再び世界が唸った。


今度は違う。


深淵の気配ではない。


管理者側の動きだった。


世界の壁の前方。


巨大な白い門が現れる。


その大きさは山脈を超えていた。


門の表面には無数の文字列。


管理者言語。


世界法則そのものを書き換える禁忌の術式。


レイが顔をしかめる。


「最悪だな……」


シオンも理解する。


奴らは最後の手段を使うつもりだ。


門がゆっくり開く。


ギギギギギギ……


耳障りな音が響く。


その奥から現れたのは――


白。


ただ白だった。


無数の白。


数え切れないほどの人影。


一人。


十人。


百人。


千人。


万。


視界の果てまで埋め尽くす白い軍勢。


全て同じ顔。


全て同じ瞳。


全て同じ神衣。


再編集執行官。


管理者が生み出した戦闘個体。


世界の異物を消し去るためだけに存在する処刑者。


シオンが呆れたように笑う。


「本当に帰らせる気ねぇな」


レイも苦笑する。


「過去最大戦力だろうな」


先頭へ進み出たAE-01が口を開く。


『黒星王確認』


『帰還阻止作戦開始』


『再編集執行官軍団展開完了』


『対象排除を開始する』


その瞬間。


無数の執行官が武器を展開した。


白い槍。


白い剣。


白い輪。


白い鎖。


世界法則そのものを削除する兵器。


普通の存在なら存在そのものが消滅する。


レイが低く言う。


「シオン」


「ん?」


「正直に言う」


珍しく真面目な声だった。


「ここまで来た黒星王は、お前だけだ」


シオンは黙る。


「だが」


レイは空を見上げた。


「ここから先へ行けた黒星王は、一人もいない」


静寂。


シオンは少しだけ笑った。


「そうか」


「怖くないのか?」


「怖いさ」


即答だった。


レイが目を見開く。


シオンは剣を肩に担ぐ。


「でもな」


蒼い瞳が輝く。


「待ってる奴がいる」


その一言だった。


レイは何も言えなくなる。


それこそが。


歴代の黒星王が最後まで手に入れられなかったものだった。


同時刻。


記憶の海。


ルナリアは胸を押さえていた。


ドクン。


ドクン。


鼓動が強くなる。


クロノが振り返る。


「また共鳴したか」


ルナリアは頷く。


「分かるの」


「何がだ?」


ルナリアは少し笑った。


涙を浮かべながら。


「シオンが今、絶対に諦めてない」


クロノは呆れたように息を吐く。


「根拠は?」


「ない」


即答だった。


「でも分かるの」


その言葉にクロノは何も言わなかった。


なぜなら。


それこそが今管理者達が恐れているものだからだ。


理屈では説明できない想い。


演算できない感情。


観測できない絆。


それら全てがシオンを支えている。


観測者領域。


シオンの胸元が輝く。


ドクン――


AE-01達が反応する。


『出力異常上昇』


『感情共鳴確認』


『解析不能』


シオンは笑った。


「だから無理なんだよ」


『意味不明』


「そうだろうな」


蒼黒い炎が吹き上がる。


黒星王の力。


観測者の力。


ルナリアの想い。


仲間達の記憶。


世界中で思い出し始めた人々。


その全てが力へ変わる。


ドォォォォォォォォォォォォン!!


衝撃波が爆発した。


先頭の執行官達が吹き飛ぶ。


白い軍勢が大きく揺れる。


世界の壁が軋む。


さらに亀裂が広がる。


レイが目を見開いた。


「まだ上がるのか……!」


その時だった。


世界が止まる。


音が消えた。


風が止まった。


執行官達も動きを止める。


AE-01の瞳が大きく揺れる。


そして。


全ての再編集執行官が一斉に膝をついた。


命令ではない。


強制でもない。


本能だった。


管理者という存在の最深部に刻まれた、最古の命令。


絶対服従。


AE-01の声が震える。


『最上位観測反応確認』


『深淵領域接続』


『観測権限発動』


レイの顔から血の気が引く。


シオンは初めて見た。


何万年もの終焉を見続けてきた男が。


恐怖を見せる姿を。


「レイ」


レイは答えない。


ただ世界の壁の奥を見ている。


その瞳には驚愕が浮かんでいた。


そして。


深淵の奥。


誰も辿り着けない場所。


そこで何かが目を開いた。


巨大な蒼い瞳。


星々より大きな瞳。


だが不思議だった。


恐ろしいはずなのに。


その瞳はどこか悲しそうにも見えた。


『観測完了』


その一言だけで。


観測者領域全体が震えた。


シオンの脳裏に、一瞬だけ映像が流れ込む。


知らない世界。


知らない空。


知らない誰か。


そして。


無数の黒星王達。


「――っ!」


シオンが顔を上げる。


今のは何だった。


レイが小さく呟く。


「深淵の観測者……」


蒼い瞳がゆっくりとシオンへ向く。


そして。


世界そのものが語るような声が響いた。


『黒星王』


シオンの身体が震える。


魂へ直接届く声。


『お前を観測する』


その瞬間。


観測者領域は白く染まった。

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