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ECLIPSE CHRONICLE ー エクリプス・クロニクル ー  作者: 神宮せいや
ECLIPSE CHRONICLE:REBIRTH

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追放された英雄

世界各地で異変が起き始めていた。


王都セレスティア。


世界樹都市アストレア。


北方氷原。


砂漠国家ザルディア。


海上国家マリネス。


場所は違う。


生きる人々も違う。


だが。


その夜、同じ夢を見た者達がいた。


黒髪の少年。


蒼い瞳。


傷だらけの身体。


それでも誰かを守るために立ち続ける背中。


誰なのか分からない。


名前も知らない。


それなのに。


夢から覚めた後も涙が止まらなかった。


まるで。


大切な誰かを思い出しかけているように。


王都の酒場では酔った男が首を傾げる。


「変な夢見たな……」


隣の男も頷く。


「俺もだ」


「黒髪のガキが出てきた」


「お前もか?」


二人は顔を見合わせる。


偶然だと思った。


だが。


同じ現象は世界中で起きていた。


忘れられた英雄の記録が。


少しずつ漏れ始めていた。


記憶の海。


クロノは険しい顔で空を見上げていた。


巨大な白い瞳。


管理者の監視権限。


その瞳の奥では無数の演算が続いている。


『異常拡散確認』


『黒星王記録流出』


『危険度上昇』


『再編集権限準備開始』


冷たい声が響く。


ルナリアの表情が曇る。


「黒星王の記録が広がると、どうなるの……?」


クロノは少しだけ黙った。


答えるべきか迷うように。


だが。


やがて静かに口を開く。


「本来の歴史が戻る」


ルナリアの瞳が揺れる。


「本来の歴史……」


「ああ」


クロノは頷く。


「世界再構築の時、管理者は大量の記録を削除した」


「黒星王」


「終末戦争」


「最後の観測者」


「そして――」


赤い瞳がルナリアを見る。


「シオン・アルヴィス」


その名を聞いた瞬間。


胸が熱くなる。


もう忘れない。


もう忘れたくない。


ルナリアは拳を握り締めた。


クロノは続ける。


「管理者は恐れたんだ」


「シオンを?」


「ああ」


静かな声だった。


「何度消しても立ち上がる」


「何度絶望しても諦めない」


「何度世界が壊れても未来を選ぶ」


クロノは苦笑する。


「管理者から見れば化け物だ」


ルナリアは首を振る。


「違う」


その声は強かった。


クロノが少し驚く。


ルナリアは真っ直ぐ前を見ていた。


涙はもうない。


「シオンはそんな人じゃない」


「……」


「誰よりも優しくて」


「誰よりも不器用で」


「誰よりも人を助けようとして」


少しだけ笑う。


懐かしい笑顔だった。


「だから何度も無茶するの」


クロノはしばらく黙った後、小さく笑った。


「確かにな」


その時だった。


ドクン――


記憶の海が脈動する。


黒い光。


シオンの記録。


それが今まで以上に強く輝き始める。


ルナリアは息を呑む。


黒い光の中。


再び映像が現れる。


終末の空。


崩壊する世界。


そして。


最後の戦場。


今まで見えなかった光景が映し出される。


そこにはアリアがいた。


レオニクスがいた。


仲間達がいた。


全員が傷だらけだった。


満身創痍だった。


それでも最後まで戦っていた。


その中心。


シオンが立っている。


黒い光に包まれながら。


世界を支えている。


たった一人で。


ルナリアは涙を堪えられなかった。


「どうして……」


映像の中のシオンは笑っていた。


苦しそうに。


痛そうに。


それでも。


仲間達を安心させるように。


『大丈夫だ』


優しい声。


『全部終わらせる』


アリアが叫んでいる。


何かを。


必死に。


レオニクスも剣を握っている。


誰も諦めていない。


だが。


シオンだけは知っていた。


自分が消える未来を。


それでも選んだのだ。


皆が生きる未来を。


ルナリアの身体が震える。


「馬鹿……」


涙が零れる。


「本当に馬鹿だよ……」


その言葉に。


映像の中のシオンが少しだけ笑った気がした。


まるで聞こえたかのように。


その瞬間。


上空の白い瞳が大きく揺れる。


『危険』


『危険』


『危険』


管理者の声が乱れる。


クロノが空を見上げた。


「限界か」


ルナリアも気付く。


世界中で記憶が戻り始めている。


黒星王という存在が。


忘れられた英雄が。


再び世界へ認識され始めている。


それは管理者にとって最悪の事態だった。


空間が軋む。


世界そのものが悲鳴を上げる。


そして。


白い瞳の奥から。


巨大な白い門が姿を現した。


クロノの顔色が変わる。


「まずい……」


「クロノ?」


「管理者が本気で世界を修正するつもりだ」


ルナリアの背筋が凍る。


今までとは違う。


圧力が違う。


存在感が違う。


白い門の向こう側から。


何かが近付いてきている。


人ではない。


管理者ですらない。


もっと上位の存在。


そして。


その気配を。


遥か世界の外側でシオンも感じ取っていた。


蒼い瞳が細くなる。


黒い光が揺れる。


世界の壁の向こう。


ルナリアのいる世界へ。


新たな脅威が現れようとしていた。

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