62、近づくお別れ……
「ちょっとぉ〜?! マリちゃん、ローブの下、装備を付けてなかったのぉ?!」
「あ、はい」
翌日、メゾン・ド・マルセ。
試着しようとローブを脱いだ私に、ヴィリーさんは叫び声をあげた。
「このローブに私が防御魔法を付与したので、中の服は動きやすいものを第一に選びました」
「た、確かにねぇ……装備は動きにくいけどぉ〜。それにマリちゃんの防御魔法はすごいんだけどぉ……」
私の言葉を聞いたヴィリーさんがうんうんと唸っている。
「防御魔法を過信しすぎるのは良くないわね。ちゃんと防具でも身を守らなくちゃぁ」
「エクス、お前ちゃんとマリにそこを伝えたのか?」
無言のエクス。そうなんだよねぇ、最初私はジャックさんのローブを着ていたから……多分エクスも忘れてたのかもしれないよね……。あと一応、私の防御魔法はジャックさんのお墨付き。早々破れないと思っていたのかも。
そんなことを言えるはずがないので、二人で黙っていると……レオさんが頭を押さえた。
「今回は問題なかったが……何が起こるかわからんからな。マリはローブの下に装備するように」
「はい……」
二人でしゅん、としていると後ろにいたマルセルさんが声を掛けてきた。
「だから私が服を仕立てたのよぉ〜。ほら、マリちゃん、どうぞ!」
彼の手にあったのは、動きやすそうな普通の洋服である。私は受け取ったあと、試着室で着替えた。ある程度伸びる素材でできているのか、着やすいがもいい。うん、そして着心地も良い。
私が試着室を出ると、周囲から歓声が上がった。
「マリちゃん、超お似合い! 可愛い!」
「流石、アタシよねぇ〜」
「店長、自画自賛はお止めください」
見つめられて恥ずかしいな、と思いつつ、私は周囲を見回す。……一番見てほしい人がどこにもいなかったのだ。そんな私の様子にレオさんが気づいたのだろう。奥を指差して教えてくれた。
「ああ、エクスなら隣で着替えてるぞ」
レオさんに言われて、隣の試着室を見ると……確かにモゾモゾとカーテンが揺れている。そうか、マルセルさん……エクスの服も作ってるって言っていたよね。
そんなことを考えていた私の耳に、マルセルさんの言葉が入ってくる。
「ふふふ、今回はお揃いで作らせてもらったわ! これを着れば一発で恋人同士だってわかるはずよぉ?」
「……!?」
私は声にならない叫び声が喉から出る。そして試着室の中からは、何かをどこかにぶつけたような鈍い音が聞こえた。ヴィリーさんは「あらあら」なんてたのしそうに頬を染めているし、レオさんは大笑いしている。
マルセルさんは私にウインクした。
「今回のコンセプトは『仲睦まじさ』を周囲に知らしめることよ! これで、引き抜きとかはなくなるんじゃないかしら?」
「な、なるほど……?」
まぁ、確かに私は何度か引き抜きみたいなことが起きたし……? それを防ぐための服と言われれば納得できる気が——
「ちょっと待て! 俺とマリは恋仲じゃない!」
叫びながら試着室を出てくるエクス。その言葉に少しだけ胸が痛んだ気がしたけど、気のせいかな。エクスは肩で息をしながら、大声を上げた。
「そんなのマリに失礼じゃないか! 俺みたいな愛想もなくて、ぶっきらぼうなやつ……あ」
「あらー? エクス、自己分析が良くできてるじゃない?」
笑いながらヴィリーさんに突っ込まれるエクスの顔は、真っ赤である。
「もう少し笑顔の練習をしたらどうかしら、はい、どうぞ!」
「ヴィリー……!」
エクスはヴィリーさんを睨みつける。けれども、彼女は楽しそうに微笑むだけだ。レオさんも二人の様子をニヤニヤと眺めている。一触即発の空気ではあったが、それを止めたのはマルセルさんだった。
「あらあら、室内で険悪な空気を作るのはやめて頂戴ね? さぁ、これが防具よ、つけてみて!」
その言葉に皆が我に返ったのだった。
マルセルさんから服の試着を終えた私とエクスは、早速広告塔となるためにもらった服のひとつを着る。マルセルさんの指定で、今日はお揃いの服だ。彼は満足そうに私たちを見ながら、話した。
「一週間くらい着て頂戴ね。それに、ニアから聞いたわ。二人はそろそろ次の街に行くんでしょう? もしどこで購入した服なのか訊ねられたら、私の名前を出して頂戴」
「わかりました!」
素材は自分で手に入れたとはいえ、今まで着ていた服よりも断然こちらの方が着やすい。オーダーメイドで作られた服ってすごいんだなぁ、と改めて実感していた。その時、ヴィリーさんの顔が少しだけ曇った。
「一週間あれば買い出しと軽く探索ができそうだな。幾つか手に入れたいドロップ品が残っているからちょうど良い」
エクスが頷く。この街ともあと一週間でおさらばだと思うと、少し残念な気持ちもある。
「お前ら、本当に行くのか?」
レオさんの言葉にヴィリーさんも目に涙を溜めている。短い間ではあったけど、本当に二人にはお世話になった。
お兄ちゃんやお姉ちゃんがいたら、こんな感じなんだろうな……って私も思ったもの。
「もちろん、色々な場所に行くこと、それが俺たちの目的でもあるからな」
エクスの言葉に同意する私。そんな暗くなった雰囲気を明るくするかのように、マルセルさんが一度手を叩いた。
「そうそう、メゾン・ド・マルセは王都にも支店があるのよ! もし王都に行った時は寄ってね? はい、これ、アタシの署名入りカード。王都でそのカードを出してくれたら、割引してあげるわ!」
「ありがとうございます!」
カードを受け取って私は思った。
……王都か。いつか行ってみたいなぁ!




