63、新たな旅立ち
それから一週間。
マルセルさんの服を着て、時には薬の材料を入手するためにダンジョンに潜り、時にはガリオンさんの店舗で必要な物を購入した。ガリオンさんは現在非常に多忙のようだったが、私たちがラクリスを発つと聞いたからか、翌日には私たちに会いに来てくれたのだ。
「いやぁ、マリ様のお陰で、冒険者用に乾燥野菜を思いつきましてねぇ。なんで今までやっていなかったのか、と思ったくらい盲点でした!」
乾燥野菜であれば軽量で、旅にはちょうど良いと思ったのだろう。現在は持ち運びがしやすいように、商品の開発中なのだとか。私たちは何度も頭を下げるガリオンさんに、お世話になった感謝を述べた。
そして——
「薬の材料、服、あれとこれも……うん、入っているな。俺の準備は問題ないが、マリはどうだ?」
「私も大丈夫よ!」
「ガリオンさんも、イメルダさんも、マルセルさんにも挨拶は終えた。あとはレオとヴィリーが見送りに来てくれると言っていたから、それで問題ないな」
綺麗になった部屋を私はゆっくりと見回した。
二ヶ月ほどの短い時間ではあったが、ガリオンさんの宿は非常に快適だった。まるで自分の家みたいに過ごすことができたと思う。不意にラクリスでの出来事が頭に思い浮かんできた。
「いろんなことがあったなぁ……」
マルセルさんに誘拐されて
アリを倒したら宝箱が見つかって
人攫いの罠に嵌って
レオさんとヴィリーさんに会って……
なんだかんだで楽しく過ごしているなぁ、そう思った私は窓から空を見上げた。
——ねえ、スタージア。空から見てるかな? 世界はこんなに広いんだよ。
「これからも一緒に見にいこうね」
「ああ、俺も付いていくからな」
隣で声がして、勢いよく振り向く。そこにいたのはイタズラが成功したような顔をしているエクスだった。
「お嬢様も……マリの冒険を楽しんでくれていると良いな」
「大丈夫だよ! だって、私が楽しいんだもの!」
そう笑顔で告げると、エクスは少し驚いた表情を見せたあと……ふっと笑った。
「まあ、そうだな。マリのおっちょこちょいを見て、お嬢様も笑ってるだろうな!」
「あ、ひどぉい! それを言ったらエクスだって——」
そう言い合いながら宿を出ていく私たち。そんな私たちの心を表しているかのように、空には雲ひとつなかった。
「エクス、いなかったね」
「ああ、いなかったな」
ラクリスの西側、次の港町に続く道。
門を通り抜けた私たちは顔を見合わせていた。
「最後だからレオさんとヴィリーさんに挨拶したかったのに……ね、エクス」
「……いや、一度会ったら引き留められるかもしれないから、これでよかったんだ」
そう告げるエクスの顔は少し暗い。
本当はレオさんやヴィリーさんに会えて嬉しかったんだろうな、って思う。まあ、エクスは素直じゃないから言えないんだろうけど。周囲は草原で、たまに風がそよそよと吹いていく。普段と違って言葉数が少ないからか、草が風に揺れる音が良く聞こえた。
エクスは普段通りの表情を浮かべているように見えて……少しだけ気落ちしているのが見て取れる。
本当に素直じゃないんだから、とは思うけど、もしかしたらそのこと自体に気づいていないのかもしれない。
私は意を決してエクスに声を掛けた。
「ねぇ、エクス——」
「あー! いたいたぁ! 待ってぇー!!」
「「!?」」
聞き覚えのある声。私たちは勢いよく二人で後ろを振り返ると、そこにいたのは満面の笑みで走ってくるヴィリーさん。そして……重そうな荷物を持って、息切れしているレオさん……。
私たちはその場で呆然としていると、追いついてきたヴィリーさんが頬を膨らませた。
「もう、二人で先行かないでよぉ!」
「まさかこんなに早く出るとは思わなかったな……はぁ……」
追いついてきたレオさんは、背負っている荷物を地面に下ろした。
いきなりのことに頭がついていかない私たちは、首をひねる。そして……。
「あの、ヴィリーさん、その、荷物は……?」
頭が働いていない私の言葉は片言だ。そんな私の様子など気にしていないのか、彼女は嬉しそうに笑った。
「私たちも、二人についていくことにしたのよ!」
胸を張って鼻を高くしながら告げるヴィリーさん。隣のレオさんも首を縦に振っている。
「二人についていく方が面白そうだと思ってな。これからもよろしく頼むぞ!」
「……?!」
エクスが声にならない言葉を発している。そんな彼をレオさんは楽しそうに頭を撫でた。
「そうかそうか、そんなに嬉しいか〜! じゃあ、エクス。俺たちの荷物もついでにお前のカバンに入れてくれよ!」
「〜〜! マリ、いくぞ!」
頭を抱えて歩き出すエクス。そんなエクスを私は追いかける。
……けど、私からは見えるの。エクスの口角が少し上がってるところが。
嬉しいんだろうな、そう思った私が鼻歌混じりに歩くと、ヴィリーさんが彼の後ろについてくる。
「ふふ、次は港町だったっけ? 楽しみねぇ」
「ついてくんなよ!」
「あらあら、エクスくんはご機嫌斜めですねぇ〜」
「おい、待て! 荷物!!」
後ろからレオさんが私たちを追ってくる。ふふふ、これからも楽しい旅になりそうね!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
第四章はここで完結とさせていただきます( ´ ▽ ` )
まだまだ四人のお話は続きますので、書き進めたらまた更新していきます♪




